Artist:ビーチ・ボーイズ
Album:Pet Sounds
Song:Caroline No
J.D.サリンジャーが1月27日亡くなりました。91歳。自然死だったそうです。65年の「ハプワース16、1924」を最後に、その後、隠遁生活に入り、いっさい文壇とはかかわりがなかったので、実質的には、すでに亡くなっていたような気がしていましたが、この訃報を知った時はかなりショックでした。
二十歳かそこいらの年に、”The Catcher In The Rye"(ライ麦畑でつかまえて)に出会いました。私にとって、思春期に誰もが体験する、モヤモヤとした漠然な悩みにひとすじの光を与えてくれた特別な一冊でした。
1951年に出版され全米でベスト・セラーになったこの小説は、主人公の「ホールデン・コールフィールド」のその攻撃的な言葉や屈折した感情が、その当時の”社会に反抗する少年の物語”として話題となり、悩める若者たちの代名詞となったとされていますが、その当時そんなことは露知らず、ただその感受性に共感し、その言葉が自分を代弁してくれていると感じていました。
ホールデン・コールフィールドは私と一緒に”セントラルパークのアヒルはどうなったんだろう”と本気で心配しながら、「自分探しの旅」をしてくれたのだと思います。
そんな、旅のなかで、キーワードになったのが「イノセンス(innocence)」という言葉でした。人生の中で何が価値のあるものか、唯一、信じれるものは何かという問いに対して、サリンジャーはフィービーという妹を「イノセンス(innocence)」(すでに死んでしまったアリーも同じだと思いますが)として登場させ、迷える魂の安住の地としての役割を与えていました。そしてかなりムラッ気のある、多少分裂した感情のあるホールデンは、フィービーに対して自分の理想をこう語ります。
「だっだぴろいライ麦みたいなところで、小さな子供たちがいっぱい集まって何かのゲームをしているところを、僕は思い浮かべちまうんだ。何千人もの子どもたちがいるんだけど、ほかに誰もいない。つまり、ちゃんとした大人みたいないたのは一人もいないんだよ。僕のほかにはね。それで僕はそのへんのクレイジーな崖っぷちに立っているわけさ。で、僕がそこで何をするかっていうとさ、誰かその崖から落ちそうになる子どもがいると、かたっぱしからつかまえるんだよ。つまりさ、よく前をみないで崖の方に走っていく子供なんかがいたら、どっかからともなく現れて、その子供をさっとキャッチするんだ。そういうのを朝から晩までずっとやってる。ライ麦畑のキャッチャー、僕はただそういうものになりたいんだ。」(村上春樹訳)
「イノセンス(innocence)」を守る「ライ麦畑のキャッチャー」ーこの言葉はその当時の私にとって、大きな命題となりました。
そして、30年がたち、結局「ライ麦畑のキャッチャー」の命題は果たせないまま現在に至っています。今はそれでいいんだと思っています。ホールデンとジタバタしたあの時が、自分には必要だったんだと・・・。
この命題を探し続けている間、ひとつの音楽に会うことができました。Brian Wilson。、私の中では、「イノセンス(innocence)」を唯一、音楽で示してくれた人でした。それは、人生のなかで、一番、大切にしたい音楽でもありました。
この曲はある意味、私の「ライ麦畑のキャッチャー」でもあります。(精神の危うい均衡を保ちながら、ピュアな作品を生み出していった点など、この二人には共通点が多いと思います。J.D.サリンジャーがもし「ぺット・サウンズ」を聞いていたとしたら、どう思ったでしょうか。)
今はただ、この曲に身をゆだね、J.D.サリンジャーに「ありがとう」と感謝したいと思います。
Caroline No
あの長い髪はどうしちゃんたんだい
僕の知っていた女の子は
どこに消えちゃったのかな
幸せでいっぱい輝いていたのに
いったいどうなっちゃったの?
ああ、キャロライン、こんなことってないよ
君をこんなにしてしまったのは誰
君はいつも言っていたじゃないか
私は絶対変わらないって、でもそうじゃなかった
ああキャロライン、君は僕の心を引き裂く
僕はどこかに行ってしまって泣きたいよ
あんなにも素晴らしかったのに
何もかもだめになっちゃうなんて
あまりにもひどすぎる
ああキャロライン,どうしてなの
昔僕をあんなにも夢中にさせたもの
もう一度君の中に見つけだせるんだろうか?
消え去ってしまったものを
僕らは再び取り戻すことができるんだろうか?
ああキャロライン、だめだよ
全く、何をやってるんだかわからない時期、
返信削除ちっともうまく行かないと思っていた時期に読みました。
僕の中にもあった innocence は
サリンジャーに、そっと守られているような気がした。
そんな風でも良いんだよ。
君は君で、痛いよね って。
大人にならないことを想像できる人と
大人になることをやめた人
なんて書くと言いすぎでしょうか。
今この年で、もう一度読み返してみると、ちょっとつらいものがあるのも事実です。あの年齢のあの時代で出会ったからこそ、ずっと輝きを失わなかったのかもしれません。小説も音楽もその年齢に応じたものがその時代にちゃんと用意されているんですね。というか、「求めよ、さらば開かれん」ということなんでしょうか。今の若者にとっては、このイノセンス(innocence)という出口さえ塞がれているような気がします。何を信じていけばいいのか・・・。今の若者はある意味たいへんな時代に生きているような気もしてきます。
返信削除こんにちは(^^)
返信削除先日、NHK-FM、浜松アーカイブス三昧で、「Pet Sounds」のアルバム全曲が流れ、初めて全曲続けて聞かせてもらいました。レコード音源で、とても良かったです!
「Caroline. No」はエリック・カルメンの「Winter Dreams」というアルバムできれいにカバーされていて、ビーチ・ボーイズの曲と知ったのは恥ずかしながら最近でした。
ビーチ・ボーイズといえば、サーファーソングのいうイメージだったのですが、今回全曲聴いたことで、すっかりイメージが変わりました。なんと、すてきなアルバムですね!
このアルバムがいまいち人気がなかったなんて、信じられないです。
ちなみに、エリック・カルメンのこのアルバムの1曲目の「I Was Born To Love You」はおなじみ、我らが稲葉さんの登場曲と同名異曲ですが、エリック・カルメンのオリジナルで、とっても素敵な曲です。
それにしても、最近のファイターズは最悪な状態…(;;)
明日からの福岡戦はどうなっちゃうんでしょう??
今でこそ「Pet Sounds」といえばロック史上に残る名盤と評価されていますが、Capitol時代のBeach Boysを同時代に聞き続けていたFanにとってはとても異質なアルバムと思えたかもしれません。ブライアン・ウィルソンがスタジオに籠もり頭の中にあるすべての音をほぼひとりで組み立てたといっても過言ではありませんね。まさに天才のなせる業だと思います。エリック・カルメンはBeach Boysのメンバー特に”Dizney Girls”の作者でもあるBruce Johnston とは交流が深いですね。最近聞いていなかったので、再度聞いてみます。SBはマジック出ちゃいました。最後まで気を抜かずがんばってくれるでしょう。
返信削除サリンジャーはどこまでも60年代の人だったのでしょう。ちょっと前に村上春樹の訳でも読んでみましたが、あまり新しい発見はなく、時代の流れを感じただけでした。
返信削除しかし、音楽は別ですね。Pet Soundsは今でも新鮮に響きます。
今となってサリンジャーは古典になっているのかもしれませんね。僕等の年代にとってはある種、バイブルみたいな本でした。だからPet Soundsもサリンジャーどちらも、その頃の輝きを放ち続けています。
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