2012年6月4日月曜日

ディズニー・ガール~Bruce Johnston


Artist:アート・ガーファンクル
Album:愛への旅立ち
Song:Disney Girls(1957)







「無人島に持って行きたい10曲」など特集されることがありますが、私が選ぶとすれば、この曲は絶対に外せません。コーラスもメロディも歌詞もどれをとっても、文句のつけようがありません。手前味噌ですが我がバンドの、音楽をやる上でのある目標というか、理想型でもあります。懐古趣味といわれようが、所詮ブライアンの作品には及ばないと言われようが、いいんです。人生の節目(結婚や子供の誕生の際)には側にいて、ある時はなぐさめ、ある時は勇気づけてくれた1曲。いつも寄り添っていてくれる、私にはとても大切な曲でもあります。

1970年代になると、Beach Boysの音楽的支柱であったブライアン・ウィルソンは精神的に不安定となり、隠遁生活に入ります。バンドも低迷の状態にありました。ブライアンの穴を埋めるべく参加したブルース・ジョンストンはこのころからソング・ライターとしての才能を発揮しはじめ、1971年にリリースされたアルバム「Surf's Up」で、この曲をBeach Boys名義で発表しています。時は、ベトナム戦争のまっただ中、反戦運動の波が全米をおおっていた頃、わざわざ、(1957)と副題をつけ、1957年の古き良きアメリカを歌った歌詞は、アルバム全体のトーンからすると、懐古的で感傷的で、綿飴みたいな曲だったかもしれません。しかし、”ディズニー・ガール”という言葉が醸し出す魔法が、まるでファンタジーの世界のようなブルースの幼なかったその時代の風景を私達に届けてくれました。

この曲が大のお気に入りとなり、一時取り憑かれたよう”ディズニー・ガール”のカヴァーを蒐集していた時期がありました。(詳細を知りたいという方はご連絡を・・・)

ビーチ・ボーイズ・フリークとしても有名な村上春樹氏は「村上ソングス」の中でこの曲を取り上げ、こう述べています。
「50年代のアメリカの小さな町の風景。人々は教会に通い、子供たちはディズニー映画に夢中で、自動車はあくまでも大きく、コンバーチブルの屋根をあけるとそこには満天の星があった。ラジオからはパティー・ペイジの「オールド・ケープ・コッド」(*)が流れている。それはもう幻想の世界だ。そんなものはどこにも存在しない。しかし彼がみつけた恋人は、彼をもう一度そんな世界に連れ戻してくれる。」

そしてさらに、こう続けています。

「この曲が作られたのが1968年であることを思い起こしていただきたい。暴動とヴェトナム戦争とドラッグ文化のまっただ中の時代である。そう、人にはつねにおとぎ話が必要なのだ。リアリティーなんて、いつだってつまらないものなのだから」

(*)ブログ主人注:ケープ・コッドはマサチューセッツ州東端にのびる岬で有名な避暑地。都会から家族をつれて、ここで夏休みを過ごしたことでしょう、子供達にとっても夢のよう日々だったと思います。私達が子供の頃、憧れたアメリカの映画やドラマの今は失われてしまった風景がそこにはあったはずです。

Disney Girls(1957) Words & Music by Bruce Johnston

空が晴れ上がり、涙も乾き 
今では君の微笑みが見える
暗闇が去り、柔らかい光が満ちて
ものごとの姿が変わっていく

やっとのことで言葉がうまく韻を踏み 
ああ、なんて素晴らしいんだ
さあ、君の両手を口づけと 
キャンディーバーでいっぱいにしよう

リアティーなんてどうでもいいさ 
そんなのつまらないじゃないか
おとぎ話とディーズニー・ガール 
僕はそんな世界に帰っていこう

バティー・ペイジと夏の日々 
懐かしのケープ・コッド
うちのガレージでワインを作った  幸福な思い出
静かな木陰で飲んだレモネード 
なんだか心のねじが緩んでいくようだ
小さな町と、近所の女の子達 
そんな世界に僕は連れ戻される
オープンカーと澄んだ星空  
僕はそれらを長く失っていた
でも、おとぎ話とディーズニー・ガール 
僕はそんな世界に帰っていこう

さあ起きて・・・・・・やあ、リック、デイブ 
やあ、父さん・・・・おはよう、母さん
さあ起きて・・・・・・目を覚まして僕を見てくれ
一人の女の子は僕をみつけ、
彼女にすっかり恋をしている
なにしろ素敵な女の子なんだ   
だって彼女が好きなのは
教会と、ビンゴのチャンス、昔風のダンスなんだもの

これまで ずっと僕は君を夢見ながら 
長い夜を過ごしてきた
僕が見失っていた温もり       
そして心から求めていたもの
そんなものがやっと実現しそうだ

僕は捧げるべき愛情を見つけ 
生きていくべき場所をみつけた
僕はもうどこにもいかないだろう 
永遠に連れ添う奥さんを手に入れ
僕は心静かな生活を手にするだろう
そのうちに子供も作ろう 
夜はまだ早いし 枕投げをして 
君の優しい笑い声を聞くんだ
おとぎ話とディーズニー・ガール   
僕はそんな世界に帰っていこう

(この曲のカヴァーを沢山、聞きましたがやはりこのヴァージョンが最高でした。)

(やはりオリジナルを聞いておきませんと・・・"Beach Boys")

(ブルースのセルフ・カヴァー・ヴァージョンこれはレコードとは違うヴァージョンです)

2012年2月14日火曜日

追悼〜Beach Boys


Artist:ビーチボーイズ
Song:Please Let Me Wonder
Album:Today!

  かれこれ25〜6年前の話になります、まだ、私も20代後半で音楽への情熱も、もっと、一途だった頃です。福岡の警固に「山兵」というレコード・ショップがありました。雑然とした小さな空間に沢山の素敵な音楽が溢れ、僕らの音楽への情熱をその空間がしっかりと受け止めてくれる特別な場所で、店長のY氏に会いに行くのが楽しみでした。

その一角にあるBeach Boysのコーナーは私の心の拠り所で、来るたびに何度もチェックを入れるのが日課になっていました。
まるで戦場で家族からの手紙が届いていないか、自分の私書箱を何度もチェックする兵士の様に。
そのコーナーにそんな思いを抱いている人達は私だけはなかったようで、そこに通い詰めていた、筋金入りのBeach Boysフリークの方々が発起人になって、1997年9月13日、福岡で記念すべき第1回のBeach Boys Convention が開催されました。
九州はもとより、岡山、大阪、東京からの参加者もいて、自己紹介もそこそこにBeach Boysのことを熱く語り合い、そして歌い、その宴は夜中まで続き、こんな人達が一体今まで何処に隠れていたんだろうと思ったものでした。
この会の冒頭に挨拶をされたのが、W氏で、それが初めての出会いでした。ここで、お会いしたI氏や後に親しくなったB氏との出会いが、その後のBeach Boysの音楽へのさらなる扉を開いてくれました。
その後、Beach Boys Convention は不定期ながらも開催され、3回目、4回目にはファンジン作りの大任を仰せつかりました。特に3回目には山下達郎さんからの手紙をいただき、今でも家宝にしております。残念なことに僕らの拠り所だった「山兵」が閉店した後は参加者もそんなに増えることはありませんでしたが、その情熱はその後も今にいたるまで続いています。

その中心的存在だったW氏が、昨日、静かに息を引き取られたとの訃報を受け取りました。

第5回からはファンジン作りで苦労していた私を見かねてか、その任を自ら引き受けて下さり、益々内容の濃い、何処へもっていっても胸をはれるような素晴らしいファンジンを作り上げて下さいました。体調を悪くされてからはI氏へと引き継がれていきましたが、すでに十冊近くになるこのファンジンは、今読んでみても、Beach Boysへの溢れんばかりの愛情が詰め込まれていて、大袈裟に言えば、私とって、Beach Boys Conventionに参加された方々と、共に、生きてきた証でもありました。
巻頭の挨拶をほとんどW氏が書かれていますが、少年の時の出会った感動をそのままずっと持ち続け、いくつになってもその心を失わない文章には、涙が自然と溢れてきます。
特に、W氏のBeach Boysの記念碑についての記事は、その後のことを予見しておられたのか・・・。涙なくしては読めません。
「Beach Boys記念碑について」その後のご報告

渡辺さん、ここにいるんでしょう。僕の名前は左の柱の中央の一番左に刻まれていますから、いつも、一緒にいますよ。これからのBrianやBeach Boysのこと、今度会うときは、沢山、お土産話をもっていきますからね。Brian,Dennis,Carlが生まれたこの場所でいつか、語り明かしましょうね。合掌。

(渡辺さんが大好きだったこの曲。心を込めて・・・。)

2012年1月31日火曜日

栞(しおり)~Nikki Jean

Artist:ニッキー・ジーン
Song:Pennies In A Jar
Album:Pennies In a Jar

長いことご無沙汰でした。ぼちぼち更新していきますので、気長にお付き合い下さい。
久しぶりに新人の紹介です。ネットでみたある音楽情報のページ。
こんな紹介の一文がありました。
「12人の偉大なるソング・ライターたちと共作を果たした奇跡的のデビュー。」
これはと思い、入手。その内容に驚愕いたしました。
以下が曲目と共作者名です。

01. How To Unring A Bell (共作者トム・ベル)
02. Steel & Feathers (Don't Ever) (共作者ボブ・ディラン)
03. La Di Da Di Da (共作者ルイジ・クレアトーレ)
04. My Love (共作者ラモント・ドジャー)
05. Pennies In A Jar (共作者バート・バカラック)
06. What's A Girl Supposed to Do? (共作者ジェフ・バリー)
07. Rockaway (共作者キャロル・キング)
08. Million Star Motel ft. Lupe Fiasco x Black Thought (共作者ボビー・ブラドック)
09. Patty Crash (共作者ポール・ウィリアムズ)
10. China (共作者ジミー・ウェッブ)
11. Mercy Of Love (共作者バリー・マン&シンシア・ウェル)
12. Sex, Lies & Sunshine (共作者カーリー・サイモン)

スゴイ。凄すぎます。曲もカヴァーではなく全部新曲なんです。この顔ぶれ、例えて言うと、ポップス愛好家にとってはモーツァルトとベートーベンとブラームスとワーグーナーと一緒に曲作ったのと同じくらいの衝撃です。

共作者を簡単に紹介いたしますと、
トム・ベルとラモント・ドジャーはそれぞれフィラデルフィア・ソウル(フィリー・ソウル)とデトロイトのモータウンをそれぞれ牽引していったソング・ライター。ディランは説明も不要でしょう。バート・バカラック、ジェフ・バリー、キャロル・キング、バリー・マン&シンシア・ウェルはポップス黄金時代-1950年後期-1960年代初期のブリル・ビルディング・サウンド(Brill Building Sound)を築き上げた作家達で、ポール・ウィリアムズ、ジミー・ウェッブ、カーリー・サイモンは70年代を代表するシンガーソングライター。日本では知名度はイマイチですがルイジ・クレアトーレはトーケンズの「ライオンは寝ている」やプレスリーの「好きにならずにいられない」のライターで、ナッシュビルのボビー・ブラドックもカントリー界では巨匠と言われています。
このブログでも、このうちの何人かは紹介してきましたが、こんなスゴイ面子とどうやって知り合い、それぞれ共作するまでに至ったのか、まさに奇跡としかいいようがありません。

一体、このNikki Jean(ニッキー・ジーン)って何者?
ニッキー・ジーン
ミネソタ州セントポールの生まれで、現在28才。5才のときにアーヴィング・バーリン生誕100周年を祝うテレビの特別番組を見たことから音楽への情熱が芽生える。ワシントンD.Cの大学でソングライティングの講義を受け、同時にノナ・ヘンドリックスに教えを請う。2005年、ヒップホップ・バンド、ヌーヴォー・リッシュに参加、また、ルーペ・フィアスコの『ザ・クール』に作品を提供、スヌープ・ドッグらと参加したことから注目を浴びる。プロデューサーのサム・ホーランダーとの会話から、アメリカ全土に及ぶ曲作りの旅を計画、実際にフィラデルフィアからロサンゼルス、ナッシュヴィル等々へと飛び、尊敬する伝説の先輩たちとの共作から昔ながらの曲作りを学び、完成したとあります。
さらに、「どうしてこのようなアルバムをつくろと思ったのか」の質問に対して
「このアルバムの企画はキャロル・キングから始まったの。メロディとエモーションが溢れ出るような、どの曲をとっても完璧な楽曲が詰まった現代版の『つづれおり』を作りたかったの。「サム・ホランダーと『つづれおり』のことを話したのをきっかけに、そういう思いを募らせるようになり、そこから音楽界を代表する一流ソングライターと曲を共作するという途方もないアイディアが生まれたの。どんなに遠くたって、私は飛んで行ったわ……ロサンジェルスに、ナッシュヴィル、マーサズ・ビニヤード島にだってね。最高に素晴らしくて、美しくて、畏敬の念を抱かずにはいられない瞬間の連続に満ちた、素晴らしい旅だったわ。部屋に一歩足を踏み入れただけで、もう彼らの魔法を感じることができるのよね。私の目的は、完全に謙虚になって、こういったソングライター達の世界に没頭し、原料となる素材から曲を作り上げることだったの。」
『つづれおり』みたいなアルバムを作りたかった、というところにぐっときますね。それぞれのソングライターへの愛情と尊敬があったのでしょうね、その熱意がこのアルバムを完成させたのだと思います。

 肝心な内容ですが、この手の企画ものは結構企画倒れで終わることが多いのですが、このアルバムは違います。往年のパワーは望めませんが、それぞれのライターの持ち味が充分堪能できる作品になっています。1曲目の How To Unring A Bell (共作者トム・ベル)からして、「これこれ、この感じ~なんだよね~」とフィリー・ソウル好きにはたまらないと思います。かゆいところに手が届くアレンジも70年代のサウンドに忠実なところも好感がもてます。ただちょっとヒップ・ホップはこのアルバムにはどうですかね~。

ポップスの音楽史というフォト・アルバムがあるならその懐かしい写真のページにひとつ、ひとつ「栞(しおり)」を挟んでいくようなアルバムです。

できれば、解説書つきの日本盤で。楽しめると思いますよ。

(バカラックとの共作。"Pennies In A Jar" 美しい)

(ラモント・ドジャーとの共作。”My Love ” モータウンしてます。)

(後はCDでお楽しみ下さい。)