2010年1月8日金曜日

夜をさすらう者たち~Tom Waits


Artist:トム・ウェイツAlbum:Small ChangeSong:Tom Traubert's Blues









Tom Waits~酔いどれ詩人。かつては知る人ぞ知る、孤高のSSWだった彼ですが最近、某テレビドラマのエンディング・テーマでこの曲が流れるようになって、徐々に注目されるようになりました。もののブログによれば(最近はものの本というよりはブログになってきましたね。)、かつて彼はこう述べています。「ストリートは色々な文化が混ざり合ってて、アメリカ文化の重要な部分。僕はそれをロマンチックにドラマ化してるだけなんだ・・・」。1949年12月7日生、ホントかどうかわかりませんが、病院に向かう、タクシーの中で生まれたとのこと、この人、生まれた時からすでにドラマになっています。
トム・ウェイツの最高傑作とされているこの”Tom Traubert's Blues”にはオーストラリアの第二の国歌といわれる、"Waltzing Matilda"の旋律が引用されています。
"Waltzing Matilda"は文字通り訳せば、「マチルダ(女性の名)とワルツを踊る」という意味なのですが”Matilda”には、もうひとつ「放浪者が身の回りの品物を持ち運びに便利なようにまとめて入れる頭陀袋」という意味があり、つまり「さまよい歩く彼の背中で頭陀袋が踊るように揺れている(waltzing)」とも訳されるそうです。この"Waltzing Matilda"にまつわる哀しい話がオーストラリアには残っているそうで、ちょっと長くなりますが、吉永小百合さんが書かれた本から、引用してみます。
『ワルツィング・マチルダ』
 オーストラリアは、先住民アポリジニの国でした。18世紀後半、イギリスがこの大陸を犯罪者の流刑地としたときから、オーストラリアの歴史は大きく変わります。それから約一世紀後の19世紀半ばのころの、こんな伝説が残っています。
 大平原の牧場に、スコットランドから美しい花嫁がやって来ました。ところが、新婚わずか3ヶ月ほどで夫の牧場主は急死してしまいます。悲しみにくれた彼女は、祖国へ帰ってしまおうかとも思いますが、夫の遺志を継いで、女ひとりここに踏み止まって牧場経営をはじめます。
 当時のオーストラリアは、スワッグマンと呼ばれる放浪の男達が、マチルダと呼ばれる野宿用の毛布を背負って、牧場から牧場へと渡り歩いていました。スワッグマンのなかは、そうして気に入った牧場にそのまま居ついて働くものもいました。そんなスワッグマン達の間に、あの女牧場主は、母親のように優しい、という評判が立ちます。
 そんなある日、大男のスワッグマンが現れました。女主人は、いつものように彼をもてなしました。男は女主人の優しさにふれて、ふるさとのスコットランドから、苦労してここまで流れてきたことを問わず語りに語ります。女手ひとつで自分を育ててくれた母が亡くなって、悲しみを断ち切るために、この新大陸へきたこと、などを。
 そして彼は、この牧場で働かせてほしいと頼み、昼は力仕事を精一杯やり、夜になると、なつかしいスコットランドの歌を歌う毎日が続きました。
 その歌の最後は決まって、「マチルダを背負って旅をしよう・・」というのでした。
 ところが、十日ほどしたとき大男は突然、また旅に出るといい、朝もやのなかを去っていきました。
 それから、数日後、騎馬警官が牧場にやって来ました。
 「この先の牧場で大男のスワッグマンに羊を盗まれましてね。そいつは騎馬警官に追われて、この先の沼に身を投げて死んだのですけど、こちらは大丈夫でしたか」
 女主人は信じられません。
 「あの大男がそんな。羊泥棒だなんて、何かの間違いですわ」
 女主人はそういうと、大男が死んだという沼のほとりへ急ぎます。ユーカリの木に囲まれた深い沼は、何事もなかったかのように静まりかえっています。風がユーカリの木の葉をゆらし、その音が、彼女には大男の歌のように聞こえました。
 「マチルダを背負って旅をしよう・・」
 マチルダを背負って旅をしよう、と歌う『ワルツィング・マチルダ』は、オーストラリアの国歌以上に、人々に親しまれている歌であり、オーストラリアを代表する歌として、百年以上も歌い継がれています。
オーストラリアに行って、初めてこの歌を聴いたとき、私は胸がいっぱいになりました。オーストラリアの人たちが明るく歌っているのになぜか哀しいのです。昔、過去をひきずってこの大陸にやってきた男達のせつない思いが、歌の中から静かに伝わってきました。(街ものがたり:吉永小百合著、講談社)

過去をひきずってきた男達の哀しみ、トム・ウェイツはそこに共感してこのメロディーを引用したのかもしれません。

Tom Traubert's Blues
(Tom Waits 1976)

Wasted and wounded, it ain't what the moon did
Got what I paid for now
骨折り損のくたびれ儲けってわけだけど、月のせいじゃねぇ
身から出た錆ってことよ。
See ya tomorrow, hey Frank can I borrow
A couple of bucks from you?
じゃまた明日な、フランク
ところで、2、3ドルかしてくれねぇかな、
To go waltzing Matilda, waltzing Matilda
You'll go a waltzing Matilda with me
もうちょっとブラブラしてぇからよ
おまえも俺と一緒にブラブラするかい

I'm an innocent victim of a blinded alley
And tired of all these soldiers here
俺は袋小路の無垢な犠牲者ってわけよ
しかし、ここにいる兵隊たちにゃ飽き飽きしたぜ
No one speaks English and everything's broken
And my Stacys are soaking wet
まともに英語も話せねえし、何もかもイカレてる
おれのスニーカーはぐっしょり濡れちまって
To go waltzing Matilda, waltzing Matilda
You'll go a waltzing Matilda with me
ブラブラするってわけにも、いかねぇか・・
おまえも俺と一緒にブラブラしてぇかい

Now the dogs are barking and the taxi cab's parking
A lot they can do for me
犬どもは吠えたてる。タクシーは道に端っこに止まってるぜ
もっとましなことができそうなもんだがなあ
I begged you to stab me, you tore my shirt open
And I'm down on my knees tonight
俺を刺してくれと頼んだら、お前は俺のシャツを引き裂きやがった、俺は膝まずいてお前にたのんでるんだぜ
Old Bushmill's I staggered, you buried the dagger
Your silhouette window light
オールド・ブッシュミル(北アイルランドのウィスキー)を飲み干して、俺は千鳥足だ。
お前はナイフをどっかに捨てちまっただろう。その姿が影になって薄明るい窓に映ってるぜ
To go waltzing Matilda, waltzing Matilda
You'll go a waltzing Matilda with me
そろそろ、この街ともおさらばかな
お前も一緒に来るかい

Now I lost my Saint Christopher now that I've kissed her
And the one-armed bandit knows
俺はお守りの十字架を無くしちまい、あの娘( Matilda)にキスしたのさ
片腕のゲイの奴に見られたよ
And the maverick Chinaman and the cold-blooded signs
And the girls down by the strip-tease shows
一匹狼の中国人、冷酷で汚ねえ看板、ストリップ劇場の女達にも、知られちまった
Go, waltzing Matilda, waltzing Matilda
You'll go a waltzing Matilda with me
そろそろここらで潮時ってことかい、旅に出るけど
お前も一緒に来るかい

No, I don't want your sympathy
The fugitives say that the streets aren't for dreaming now
お前の同情なんてほしくもねぇよ、
ずらかった奴等は、街にぁ夢なんてもんはありゃしねぇっていうぜ
Manslaughter dragnets and the ghosts that sell memories
They want a piece of the action anyhow
殺人犯を追い回す捜査網、想い出を売る亡霊
みんなとにかく何かしたがってるのさ、
Go, waltzing Matilda, waltzing Matilda
You'll go a waltzing Matilda with me
ダラダラした生活に飽き飽きして
何かすげえことが起こるのを待っているってわけよ。

And you can ask any sailor and the keys from the jailor
And the old men in wheelchairs know
水兵にかたっぱしから聞いてみな、看守の奴からぶんどった鍵のこと
車いすに乗った爺さんは知ってるぜ
That Matilda's the defendant, she killed about a hundred
And she follows wherever you may go
マチルダが被告だってことこともな
あいつ、百人ぐらいやっちまった(殺っちまった)んだからな
Waltzing Matilda, waltzing Matilda
You'll go a waltzing Matilda with me
マチルダに追いまわされる、マチルダに捕まっちまうぜ
お前もマチルダから逃げれなくなっちまうんだ。
(注;いつまでたっても、夜の街をさすらい続けるという意味ともとれます)

And it's a battered old suitcase to a hotel someplace
And a wound that will never heal
どっかの安ホテルへ届けらる使い古してボロボロのスーツ・ケースとこの傷は二度と直りゃしねえのさ
No prima donna, the perfume is on
An old shirt that is stained with blood and whiskey
気のきいた香水をつけた女もいねぇ
着古したシャツにゃ、血と酒のシミがある
And goodnight to the street sweepers
The night watchman flame keepers and goodnight to Matilda too
街の掃除人さんよ、おやすみ
夜警のおっさん、街灯をつけてあるくおっさん
それにマチルダよ、おやすみ


この歌は夜を放浪する人達の歌。そう「夜をさすらう者たち」への挽歌なんですね。


   

2 件のコメント:

  1. 孤独の旅路2011年11月19日 4:02

    いや~、対訳を読みながら聴いたら、たまりませんでした。大学生の時、いい曲だなあと思って聴いてましたが、ようやく曲の持つ意味が分かりました。私も旅の途中です。

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  2. 孤独の旅路 さん
    この詞を日本語で伝えるのは至難の業だと思います。何とか今まで訳に手を加え、イメージだけは伝えられたかなと思っています。トム・ウェイツの詞を日本語で捉える場合は、映像をイメージする方がいいのかもしれません。

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