2010年4月25日日曜日

我が青春のカセット・テープ〜Robert Byrne

Artist:バーン&バーンズ
Album:An Eye For An Eye
Song:One More Try For Love










1970年代も終わろうとしていた79年。洋楽はAOR全盛期でした。大学生だった私は、ご多分に漏れずその手のレコードを聞きまくっては、友人達に気に入った曲をあつめたカセットをプレゼントしていました。その中でもロバート・バーン(Robert Byrne)の邦題「ワン・ナイト・ロマンス」というLPは大のお気に入りでした。















派手なトランクスの女性のヒップのケバいジャケット。まるでB級ディスコ盤みたいで、ジャケ買いはまずありえないレコードでしたが、中身は特A級品。特に”Blame It On The Night"のメロウなメロディーに、心を奪われ、お気に入りAORカセットの常連曲となりました。しばらくして、すぐに廃盤となったこともあってか、あまり話題にもならなかったレコードでしたが、私のレコード棚の中ではAORの名盤としてずっと君臨していました。

それから、2年後、女性の顔の上に小さな金属製の人形が乗っかった素敵なジャケットの帯にロバート・バーン&ブランドン・バーンの名前をふたたび見つけました。
















それが「ワン・ナイト・ロマンス」のあのロバート・バーンだと直感し即、購入して聞いてみると、これが、前作にも引けをとらない、クオリティーで特に”One More Try For Love" のメロディーには目頭が熱くなるほどの感動を覚えました。

これほどの曲を書くRobert Byrneというの才能をアメリカの音楽界がほっておくはずがない。そのうち、メロディー・メイカーとしてきっと有名になるに違いないと思っていたのですが、そのご何の音沙汰もなく、バーン&バーンズ名義のこの「An Eye For An Eye」も日本のみの発売だったことを知り、こんなに才能がある人でもすら、コンスタントにアルバムを発表することができないアメリカの音楽界の厳しさを実感させられたのでした。
やがて時はすぎ、2000年になりやっと「ワン・ナイト・ロマンス」(原題:Blame It On The Night)がUSA盤ジャケットに差し替えられて(当然でしょう)CD化され、2001年にはバーン&バーンズ名義の「An Eye For An Eye」もこれもジャケットを刷新してCD化されました。(ボーナス曲も2曲追加されました)
帯にはAORの名盤の字がおどっておりましたが、このアルバム、いや、ロバート・バーンという人の才能が認められるまでどれだけの時間が必要だったのだろうという思いが消えませんでした。
さらに、数年後、Robert Byrneは2005年の6月にナッシュヴィルでひっそりとなくなったと何かのブログで知りました。死因は不明。51歳の誕生日を迎える直前の出来事だったそうです。あのカセット・テープはもう手元にはありませんが、あなたの曲は永遠に私の心の中で回り続けています。

(アルバム「An Eye For An Eye」より”One More Try For Love”名曲です。)


(アルバム「ワン・ナイト・ロマンス」より”Blame It On The Night")









2010年4月20日火曜日

40年の道程~Carole King&James Taylor


















Artist:キャロル・キング&ジェイムス・テイラー
Album:The Carnegie Hall Concert
Song:You've Got A Friend

 キャロル・キングとジェイムス・テイラーが来日しておりました。今回はデュオでのコンサート。単独でも充分なのに、二人そろって、そしてなにより一緒に歌うところが、見れるなんて、なんて贅沢なコンサートでしょう。2010年4月14日(水)、16日(金)は武道館、2010年4月17日(土)の追加公演はパシフィコ横浜の3回のみ、メンバーはCAROLE KING、JAMES TAYLOR 、DANNY KORTCHMAR (g)、RUSS KUNKEL (ds)、LEE SKLAR (b) 、RUDY GUESS (g)、ROBBIE KONDOR (key)
KATE MARKOWITZ (vo)、ARNOLD McCULLER (vo)、ANDREA ZONN (vo & fiddle)大半は70年代から一緒にやっていたメンツですね。す、すごいです。
(キーボードがCRAIG DOERGEだったらセクションのメンバーが勢揃いだったんですけど・・)休みのとれない我が身を嘆きつつ、どんなコンサートだったんだろうと、思っておりましたら、ブログのコメントの常連でもあるCantokuさんが武道館のコンサートを見に行ったそうで、コメントを送ってくれました。30分の休憩をはさみ、約3時間。前半はお互いの曲を交代で、後半はお馴染みの曲のオン・パレードだったようで、アンコールまで心憎い演出がされていたそうです。そしてなによりも武道館全体がやさしさに包まれていて、いたる所から「信じられない・・・」というため息まじりの声が聞こえていたそうです。なんだか、会場の雰囲気がそれだけで、伝わってくるようです。
二人の音楽と出会は71年頃。長かったようで短かったような道のりの傍らには、いつも彼等の音楽が流れていたような気がします。たぶん、そんな思いを会場の観客が共有していたのかもしれませんね。せめて福岡まで来てくれたらね・・。(やっぱり、無理か・・・)
 ちなみに、4月16日のプレイリストをみますと、
01.Blossom
02.So Far Away
03.Machine Gun Kelly
04.Carolina In My Mind
05.Way Over Yonder
06.Smackwater Jack
07.Country Road
08.Sweet Seasons
09.Mexico
10.Song Of Long Ago
11.Long Ago And Far Away
12.Beautiful
13.Shower The People
14.(You Make Me Feel Like)
(休憩)
15.Copperline
16.Crying In The Rain
17.Hi-De-Ho (That Old Sweet Roll)
18.Sweet Baby
19.Jazzman
20.Will You Love Me Tomorrow
21.Steamroller Blues
22.It's Too Late
23.Fire And Rain
24.I Feel The Earth Move
25.You've Got A Friend
(アンコール)
26.Up On The Roof
27.How Sweet It Is
28.You Can Close Your Eyes
29.Locomotion
なんと、懐かしの70年代の名曲が目白押しです。ん~涙なしには聞けないラインナップですね。ジェイムスの華麗なピッキングが聞こえてきそうですし、キャロルキングの”Jazzman”なんかもよかったでしょうね、しかし、やはり一番聞きたかったのは二人で歌ったであろう”You've Got A Friend”。
おそらく流れる涙をぬぐうこともできず、一緒に口ずさんでいたにちがいありません。「♪~Winter, spring, summer or fallall you got to do is call~♪」
”You've Got A Friend”のふたりの一番古いオフィシャルなテイクといえば、71年の6月にカーネギーホールでの収録。すでに、約40年経っているんです。今回行けなかった分、5月に発売されるDVDと、このテイクと聞き比べながら「40年の道程」をふり返ってみるのもいいかもしれませんね。

(同じく71年のセッション。キャロルキングはピアノのみで残念ながら歌はなし)

(いままで厳しい音楽界で生き抜いてきた、二人の絆を感じます。)

2010年4月17日土曜日

類は友を呼ぶ~Hall & Oates

Artist:ホール&オーツ
Album:X-Static
Song:Wait for Me












 ホール&オーツといえば70年代後半から80年代にかけて、一世を風靡したポップ・デュオ。R&Bテイストを取り入れたポップス~いわゆる「ブルー・アイド・ソウル」を代表するアーティストといわれています。「ブルー・アイド・ソウル」とは言葉どうり、「ブルーの瞳の白人が歌うソウル」という意味で、最初は白人、黒人双方とも、多少揶揄をこめた言い方だったようです。いまでは一つのジャンルとして確立していて、個人的にも愛聴盤がたくさんあります。日本にもR&Bに影響をうけたヴォーカリストが増えてきましたが、日本人の場合だと「イエロー・スキンド・ソウル」とでも呼ぶのでしょうか。ん~何か違和感がありますね。

 ところで、ホール&オーツの中でマイ・フェイバリット・ソングなのが”Wait for Me”なのですが、これを最初聞いたとき、あるアーティストの曲と思い込んでいました。それほど歌い方、メロディーがそのアーティストの曲の雰囲気に似ていたんです。それは、このブログでも取り上げたこともありますトッド・ラングレンです。トッドの書いた曲を、このグループが歌っていたのかと思いきや、ダリル・ホールの自作ということで、同じDNAを感じたのでした。おそらく、どちらも背景には60~70年代のモータウンやフィリーソウルなどがあったのだと思いますが、似た感性を持っていたのかもしれません。
 ホール&オーツとトッド・ラングレンに接点はなかったのか調べてみましたら、ありました。1974年にリリースされたアルバム「War Babies」をトッドがプロデュースしてたんですね。結果は全米第86位で惨憺たるものだったようで、その後レコード会社を移籍するきっかけにもなったようです。(このときはミスマッチだったようですね)
 You-tubeをみてましたら、ダリル・ホールのTV番組(?)がありまして、毎回ゲストとセッションするという企画みたいなのですが、それにトッド・ラングレンが出演してました。
お互いの曲を歌っているのですが、これが全然違和感がなく、まるでどちらも自作の曲を歌っているような感じなんです。(声もどことなく似てますし・・・)
まさに、似たもの同士、類は友をよぶといったところでしょうか。

 (Wait For Me- Daryl Hall, Todd Rundgren)


(Can We Still Be Friends - Daryl Hall, Todd Rundgren)

2010年4月13日火曜日

オランダのシナトラ~Wouter Hamel

















Artist:ウーター・ヘメル
Album:Nobody's Tune
Song:March,April,May

本日は、最近お気に入りの1曲を紹介させていただきます。Wouter Hamel(ウーター・ヘメル)という人なんですが、発音からして英語圏ではない名前です。実はオランダ出身。若干、32才のイケメン、ジャズ・シンガー。「シルクの声を持つジャズ界のプリンス」「新世代のフランク・シナトラ」などと表されているようで女性ジャズ・シンガー愛好家のオジサンとしては、余り触手が伸びないところなんですがこれがよいのです。クラシカルなジャズではなくかなりPopでAORぽいところもあるんですが、だぶんクラシカルなジャズなんか歌ってもうまいんでしょうね。現在までに2枚のアルバムをリリースしているようですが、世界的にも注目されているようです。(日本ではまだそんなに知られていないようですがすでにご存じの方がいらしたら、ゴメンナサイ)
とくにこの”March,April,May”はコーラスのアレンジも秀逸で、メロディーもなかなか。「新世代のフランク・シナトラ」とはちと言い過ぎのような気もしますが、今からが楽しみなアーティストです。

 はっきりいってオランダという国のミュージシャンはあまり馴染みがありません、昔ジェリー・ロスという名プロデューサーのことを調べたことがあり、その昔70年代にオランダ出身のショッキング・ブルーの”ビーナス”をヒットさせたという記憶はありますが(ブリティッシュ・イノベーションにかけて、ダッチ・イノヴェーションとも言われていたようです。)
その他には世界的なミュージシャンはいなかったような気がします。
そう言えば、つい最近リリースされた2枚のバカラック・ソング・ブック・アルバム「Who'll Speak for Love」、「Look of Love」で素晴らしい歌唱力を披露していたTrijntje Oosterhuis(トレインチャ・オースタルハウスと読みらしいのですが、舌噛みそうな名前です)もオランダの国民的ポップス歌手でした。(これもそのうち取り上げたいアルバムです。)オランダのミュージシャンも素晴らしい才能を持った人がいますね。裏を返せば、それだけ現在のアメリカ・イギリスの音楽界が経済と同じように求心力を失って来ているように思えます。(グラミー賞なんか観ててもはっきりいって、面白くないですもんね)
 とにかく、色々な国の人の音楽を聞いてみるいいもんです。

2010年4月9日金曜日

職人芸〜10cc

Artist:10 cc
Album:The Original Soundtrack
Song:I'm Not In Love












今回はこの曲。ご存じ、10 cc の代表曲であり、70年代ロックを代表する1曲でもあります。
イギリスはマンチェスター出身。メンバーはグレアム・グールドマン、エリック・スチュワート、ロル・クレーム、ケヴィン・ゴドレイの4人。
グールドマン&スチュワートがおもにバンドのメディー・メイカーだったのに対し、ゴドレイ&クレームはおもに音響やレコーディング・テクニックや映像の方を担当していました。つまり二つのユニットが合体したようなグループだったんですね。優れたメロディー・メイカーと優れたサウンド・メイカーが色々なアイデアを出して、1+1=2ではなく10ぐらいになったのがこの曲なのかもしれません。

 架空の映画音楽をコンセプトしたこの「The Original Soundtrack」は1975年にリリース。10ccの中でも最高傑作とされるこのアルバムは後のクイーンの”ボヘミアン・ラプソディー”にもかなり影響をあたえたとされています。その中でも”I'm Not In Love”はメロディーの素晴らしさもさることながら、さらにメロディーを引き立たせている、洪水のような分厚いコーラスに魅了されます。
先日BSの音楽番組「Song to Soul〜永遠の1曲」をみていたら、この曲をコーラスをどうレコーディングしていったかをエンジニアが解説してましたが、たいへん面白かったのでちょっとその話を・・・。まず1975年のころマルチトラックレコーダーは今みたいに、無制限にトラックが増やせませんし、ヴォコーダーやメロトロンもまだ開発の段階でした。では「どうやってつくったの?」。その番組の解説を総合すると、
1)3人のユニゾンで「アー」という単音(たとえばド)をMTRにレコーディングして、ダビングを繰り返す、仮に10回繰り返すと3人×10回=30人分の「ド」のユニゾンができる。
2)別のオープンリール・レコーダーにこの30人分の「アー」をミックスしたものをダビング。
3)この1トラックにまとまった30人分の「ド」のテープをハサミで切り、スプライシング・テープで貼り付けて輪の状態にする(ループを作る)
4)上記を繰り返し、この曲のコーラスで必要な音程の数(12音程度と思われる)のループ・テープを作成する。
5)こうして出来上がった12音分のアナログ・テープを、一本ずつループ再生しながら別のMTRに、曲の長さ分ダビングする。(合計12トラック使用することになる)
6)こうして出来上がったマルチ・テープの12トラックを、ミキサー卓に個別に立ち上げ再生する。すると、12トラックの各フェーダーは12種類の音程(・・A,A#,B,C,C#,D,D#,E,F,F#,G,G#・・)のボリュームをコントロールすることができる。
 仮に「ドミソ」のコーラスを再現する場合は、それぞれの音程が録音されているトラックのフェーダーを上げてやる。音程毎に30人分のコーラスであるから、「ドミソ」だけでも90人分。12個のフェーダー全部上げると、360人分のコーラスが再生されることになる。
7)この状態で曲に合わせて、各フェーダーを上げ下げしてハーモニーを作りながらコーラスパートを加える。イントロやエンディングで現れる洪水のようなコーラスはキーはAなのでラ-シ-ド#-レ-ミ-ファ#-ソ#の7音のフェーダーを全て上げる。実際にはコーラスに加えシンセもダビング。(以上 metpatheny さんのプログからの引用)

つまりミキサーのフェイダーを鍵盤がわりに使って、コーラスを作っていくというきわめてアナログ的な手法でつくられていたんです。途方もない手間と時間。まさに職人芸。

「いいかげんな仕事しちゃ〜、お天道様に申し訳がたたねぇ〜やな。」とマンチェスター弁で啖呵を切ったかどうかは、定かではありませんが・・。

まさに、ミキシングしながら、音楽をつくっていくということなんで、メロディー・メイカー組とサウンド・メイカー組がしっかりスクラムを組んでいたから為しえた作業ともいえます。(ちょうど浮世絵の作者と彫り師や摺り師の関係ですね。)

しかし皮肉なことに、この曲の大ヒットによりメロディー・メイカー組とサウンド・メイカー組が対立。1976年にはあっさり解散してしまいます。1992年には同じメンバーで再結成していますが、昔の輝きを取り戻すことはありませんでした。名曲が生まれるためには、この魔法のような何か(1+1=10)が必要なんですね。

2010年4月6日火曜日

海藻(かいそう)男の贈り物~Hirth Martinez



















Artist:ハース・マルティネス
Album:Hirth From Earth
Song:Altogether Alone
「よくよく見れば、ヘンテコなジャケ」っていうレコードがあります。
ハース・マルティネスのファースト・アルバム「ハース・フロム・アース」はそんな1枚です。海の波の泡の中から、忽然とあらわれる、海藻まみれの男。最初、海で遭難した男が命からがら、岸に流れ着いたところなのかなと思ったほどでした。
タイトルが「Hirth From Earth」(地球からやってきたハース?)なので、意図はわかりますが・・・。

裏ジャケに至っては、もっとショボい・・・凍えそうなサングラス姿の海藻男。
ブラック・ジョーク的な発想なんでしょうが、もうちょっと、どうにかならなかったのしょうかね。

まあ、このジャケについては、一言ありますが、アルバムの内容の素晴らしさは保証いたします。とにかく、1曲目の”Altogether Alone”の素晴らしさときたら、完全にノック・アウトされます。
ちょっとJazzyな鼻歌を歌うような、スモーキー・ヴォイス。ボッサなほんわかしたメロディ。バックに波の音さえ聞こえてきそうな・・・・。いい曲です。
この1曲のために、アルバムをもっていても決して損はないと確信しております。
(もちろん、他の曲もいいんですよ。)
 プロデュースはザ・バンドのギタリスト、ロビー・ロバートソン。
あまりカントリー寄りにならず、小粋なJazz風味のスパイスが絶妙です。
まさに大人の音楽ですね、参加ミュージシャンも渋いですぞ~、ザ・バンドからはガース・ハドソン(ピアノ)、ニール・ヤング周辺から、ベン・キース(ベダル・スティール)、ジェームス・テイラー周辺からラス・カンケル(ドラム)、ローラ・ニーロのアルバムでも渋いプレイをしてたチャック・レイニー(ベース)。よく考えると馴染みのミュージシャンばかり。
そんなこんなで、 ”Altogether Alone”を聞いた後では、「海藻男の鼻歌が海からの贈り物」に思えてくるし、ヘンテコ・ジャケからも結構なインパクトが感じられるようになるから、不思議です。

ハース・マルティネスさんは、その後も日本の良心的なレーベル、ドリームズ・ヴィルから良質なアルバムをリリースしております。機会があったらこの辺も聞いてみて下さい。
(”Altogether Alone” by Hirth Martinez)


(”Altogether Alone”、大好きなグループBE THE VOICEもカバーしてました。
このヴァージョンもいいですよ。)