2012年1月31日火曜日

栞(しおり)~Nikki Jean

Artist:ニッキー・ジーン
Song:Pennies In A Jar
Album:Pennies In a Jar

長いことご無沙汰でした。ぼちぼち更新していきますので、気長にお付き合い下さい。
久しぶりに新人の紹介です。ネットでみたある音楽情報のページ。
こんな紹介の一文がありました。
「12人の偉大なるソング・ライターたちと共作を果たした奇跡的のデビュー。」
これはと思い、入手。その内容に驚愕いたしました。
以下が曲目と共作者名です。

01. How To Unring A Bell (共作者トム・ベル)
02. Steel & Feathers (Don't Ever) (共作者ボブ・ディラン)
03. La Di Da Di Da (共作者ルイジ・クレアトーレ)
04. My Love (共作者ラモント・ドジャー)
05. Pennies In A Jar (共作者バート・バカラック)
06. What's A Girl Supposed to Do? (共作者ジェフ・バリー)
07. Rockaway (共作者キャロル・キング)
08. Million Star Motel ft. Lupe Fiasco x Black Thought (共作者ボビー・ブラドック)
09. Patty Crash (共作者ポール・ウィリアムズ)
10. China (共作者ジミー・ウェッブ)
11. Mercy Of Love (共作者バリー・マン&シンシア・ウェル)
12. Sex, Lies & Sunshine (共作者カーリー・サイモン)

スゴイ。凄すぎます。曲もカヴァーではなく全部新曲なんです。この顔ぶれ、例えて言うと、ポップス愛好家にとってはモーツァルトとベートーベンとブラームスとワーグーナーと一緒に曲作ったのと同じくらいの衝撃です。

共作者を簡単に紹介いたしますと、
トム・ベルとラモント・ドジャーはそれぞれフィラデルフィア・ソウル(フィリー・ソウル)とデトロイトのモータウンをそれぞれ牽引していったソング・ライター。ディランは説明も不要でしょう。バート・バカラック、ジェフ・バリー、キャロル・キング、バリー・マン&シンシア・ウェルはポップス黄金時代-1950年後期-1960年代初期のブリル・ビルディング・サウンド(Brill Building Sound)を築き上げた作家達で、ポール・ウィリアムズ、ジミー・ウェッブ、カーリー・サイモンは70年代を代表するシンガーソングライター。日本では知名度はイマイチですがルイジ・クレアトーレはトーケンズの「ライオンは寝ている」やプレスリーの「好きにならずにいられない」のライターで、ナッシュビルのボビー・ブラドックもカントリー界では巨匠と言われています。
このブログでも、このうちの何人かは紹介してきましたが、こんなスゴイ面子とどうやって知り合い、それぞれ共作するまでに至ったのか、まさに奇跡としかいいようがありません。

一体、このNikki Jean(ニッキー・ジーン)って何者?
ニッキー・ジーン
ミネソタ州セントポールの生まれで、現在28才。5才のときにアーヴィング・バーリン生誕100周年を祝うテレビの特別番組を見たことから音楽への情熱が芽生える。ワシントンD.Cの大学でソングライティングの講義を受け、同時にノナ・ヘンドリックスに教えを請う。2005年、ヒップホップ・バンド、ヌーヴォー・リッシュに参加、また、ルーペ・フィアスコの『ザ・クール』に作品を提供、スヌープ・ドッグらと参加したことから注目を浴びる。プロデューサーのサム・ホーランダーとの会話から、アメリカ全土に及ぶ曲作りの旅を計画、実際にフィラデルフィアからロサンゼルス、ナッシュヴィル等々へと飛び、尊敬する伝説の先輩たちとの共作から昔ながらの曲作りを学び、完成したとあります。
さらに、「どうしてこのようなアルバムをつくろと思ったのか」の質問に対して
「このアルバムの企画はキャロル・キングから始まったの。メロディとエモーションが溢れ出るような、どの曲をとっても完璧な楽曲が詰まった現代版の『つづれおり』を作りたかったの。「サム・ホランダーと『つづれおり』のことを話したのをきっかけに、そういう思いを募らせるようになり、そこから音楽界を代表する一流ソングライターと曲を共作するという途方もないアイディアが生まれたの。どんなに遠くたって、私は飛んで行ったわ……ロサンジェルスに、ナッシュヴィル、マーサズ・ビニヤード島にだってね。最高に素晴らしくて、美しくて、畏敬の念を抱かずにはいられない瞬間の連続に満ちた、素晴らしい旅だったわ。部屋に一歩足を踏み入れただけで、もう彼らの魔法を感じることができるのよね。私の目的は、完全に謙虚になって、こういったソングライター達の世界に没頭し、原料となる素材から曲を作り上げることだったの。」
『つづれおり』みたいなアルバムを作りたかった、というところにぐっときますね。それぞれのソングライターへの愛情と尊敬があったのでしょうね、その熱意がこのアルバムを完成させたのだと思います。

 肝心な内容ですが、この手の企画ものは結構企画倒れで終わることが多いのですが、このアルバムは違います。往年のパワーは望めませんが、それぞれのライターの持ち味が充分堪能できる作品になっています。1曲目の How To Unring A Bell (共作者トム・ベル)からして、「これこれ、この感じ~なんだよね~」とフィリー・ソウル好きにはたまらないと思います。かゆいところに手が届くアレンジも70年代のサウンドに忠実なところも好感がもてます。ただちょっとヒップ・ホップはこのアルバムにはどうですかね~。

ポップスの音楽史というフォト・アルバムがあるならその懐かしい写真のページにひとつ、ひとつ「栞(しおり)」を挟んでいくようなアルバムです。

できれば、解説書つきの日本盤で。楽しめると思いますよ。

(バカラックとの共作。"Pennies In A Jar" 美しい)

(ラモント・ドジャーとの共作。”My Love ” モータウンしてます。)

(後はCDでお楽しみ下さい。)