2010年3月31日水曜日

幻のブルースを求めて〜映画「クロスロード」

Artist:ライ・クーダー
Album:映画「クロスロード」よりSong:Crossroads

今回も映画ネタです。
ロバート・ジョンソンをご存じでしょうか。1930年代に南部デルタ地帯で活躍した伝説のブルーズマン。なぜ伝説かというと有名なエピソード「クロスロード伝説」があるからです。1911年に、母親との浮気相手ノア・ジョンソンとの間に生まれた子供だったとされています。10代の頃に本当の父親の存在を知った彼は、ジョンソン姓を名乗るようになりました。16歳かそこいらで結婚、妻は出産の際に、子供と供に亡くなってしまいます。(この頃の南部の黒人達は、まともな医療も受けれなかったようです。)その後アコースティック・ギター一本をもって、旅に出ます。ブルースを弾き語りしながら、各地を渡り歩き、地元のブルースマンと交流(というか、果たし合いのようなバトルもあったようです。)を通して、テクニックを磨いていきます。そしてその演奏があまりにも素晴らしいかったために「十字路で悪魔に魂を売り渡して引き換えにテクニックを身につけた」という伝説が広まりました。これをもとにジョンソン書いたのが「クロスロード」というブルースでした。1938年わずか、27歳の短い生涯を終えています。彼の死因については諸説があり、一説では夫のいる女性に手を出したため、ストリキニーネで毒殺されたとも情事を夫に目撃されてその場で刺し殺されたなどとの説がありますが、上記のクロスロード伝説のためか、彼を殺したものは悪魔であると誠しやかに語られるようになりました。1936〜1937年のたった2年間の間に残されたレコーディングは全部で29曲(42テイク)、そして残されたロバート・ジョンソンとされる写真はたったの2枚だったといいます。

一地方のミュージシャンが一躍伝説のブルーズマンとされるようになったきっかけは,なんといっても彼の死後、クリームがこの「クロスロード」を取り上げ、また様々なロックグループが競ってカヴァーしたことによります。

 そして、この伝説のブルーズマンが残した幻の1曲を求めて、NYのブルース好きの青年とこれも謎の多い実在したブルースマン「ブラインド・ドッグ・フルトン」ことウイリー・ブラウンが南部へさすらいの旅に出るというスチエーションで作られたのが映画「クロスロード」です。旅の途中、2人は家出少女のフランセスと出会い、共に旅を続け、伝説の十字路(クロスロード)までたどり着くのですが・・・・。
あとは見てのお楽しみということで。

音楽はライ・クーダー、冒頭のシーンでロバート・ジョンソンのレコーディングシーンを再現させているのですが、ギターはどうもライ・クーダーが吹き替えて演奏しているようで、これが素晴らしい演奏なんです。
サントラのCDもリリースされているんですが、その中には残念なことに収録されていません。原曲と聞き比べてみて下さい。

2010年3月24日水曜日

デイモン・ラニアン〜Harpers Bizarre

Artist:ハーパース・ビザール
Album:Anything Goes
Song:Pocketful of Miracles









時は、禁酒法が罷り通っていた1930年代、所はNYはブロードウェイ界隈、クリスマス間近の街。りんごを売り歩く毎日を過ごす貧しい老女アニーの唯一の慰めは、離れて暮らす娘からの手紙だった。以前から、アニーは貧しい自分を恥じ、手紙では身分を偽り、街の名士たちと日々面会し高級ホテルを住処に忙しく活動する淑女であると娘に書き送っていたのだった。そんなある日、娘はスペイン伯爵の子息と結婚式を挙げることを知らせ、アニーとも引き合わせたいと言って来た。娘は完全に手紙の内容を信じている。このままでは嘘がばれて娘の将来が危うくなる。そう考えたアニーに救いの手を差し伸べたのは、アニーが売るりんごの不思議な力で急場をしのぎつづけているギャングたちであった…。
とこんな、ストーリーではじまる映画のタイトルは「Pocketful of Miracles」(邦題:ポケット一杯の幸福(しあわせ))。1961年のこの作品の監督は「オペラハット」、「或る夜の出来事」「スミス都へ行く」などの名作を作った名匠、フランク・キャプラ。
この作品、実は「一日だけの淑女」という1933年に自ら作った映画のリメイクなんですね。なんとも心温まるこのストーリーがよっぽど気に入ったのか、キャストも全部変えて再度撮ってるんです。老婆のアニー役にはキム・カーンズの名曲”ベティ・デイビスの瞳”に歌われたベティ・デイヴィス(たしかにこの女優さん不思議な目力がありますね)、ギャングの子分ジョイ役に駆け出しの頃の「刑事コロンボ」、ピーター・フォーク、そしてアニーの娘役に”Hey Little Star"などのポップスの名曲の歌い手でもあった、美貌のアン=マーグレットなど出演者もなかなか魅力的です。

 このお話には原作があり、デイモン・ラニアンという作家の「マダム・ラ・ギンプ」という短編が元になっているのですが、裏通りに住む人達の人情をユーモアと優しさをもって書かれたその短編たちに、二十歳の頃に夢中になり読みあさっておりました。短編のストーリーは、ほぼ共通していて、子供の無垢さや、ひたむきに生きる女性への純愛、老婆の哀しみなどに触れ、日頃そんなことは絶対しない悪党たちが情に絆され、「人肌脱いでやろうぜ」とばかり一生懸命に尽くす、その間のドタバタを面白おかしく読ませてくれたあと、最後にちょっとホロリとさせるという、おきまりのパターンなんですが、登場人物が生き生きと描かれて、どの短編もその当時の映画をみているような気分にさせてくれます。残念ながら、デイモン・ラニアンの短編集および文庫本も、現在廃刊になっていますが是非、再出版してもらいたいものです。

 今回は、この映画のテーマソングである”Pocketful of Miracles”を取り上げてみました。作者は数々の映画音楽を手がけたジミー・ヴァン・ヒューゼンとサミー・カーン。”But beautiful”、”Like Someone In Love”、”I Thought About You””All The Way ”などのスタンダード・ナンバーは彼等の作品です。

この曲もシナトラをはじめ、数々のヴァージョンがありますが、バーバンク・サウンド〜洗練されたポップス・センスとオールドタイム風のアレンジを巧みにミックスさせて奥行きのある独特のロック・サウンドを創りあげた一連のワーナー・ミュージックの作品〜の中で異彩をはなっていたコーラス・グループ、「ハーパース・ビザール」のヴァージョンがオススメです。
リード・ボーカリストとしてハーパース・ビザールの中核的存在であったテッド・テンプルマンは、グループの解散後にプロデューサー業へ転じ、ヴァン・モリスンの「テュペロ・ハニー」(1971年)、リトル・フィートの「セイリン・シューズ」(1972年)、ドゥービー・ブラザースの「キャプテン・アンド・ミー」(1973年)など、ロック史上に残る多くの名盤やヒット・アルバムを手掛けることでワーナー・ミュージックを代表するプロデューサーとなりました。

("Pocketful of Miracles" by Harpers Bizarre)

2010年3月17日水曜日

シング・ア・ソング〜Bonnie Rait

Artist:ボニー・レイット
Album:アコースティック・ギター・デイズ~The Days Of Acoustic Guitars
(CD-BOX)
Song:Love Has No Pride






すばらしいCDが発売されたものです。いままでのCD-BOXという概念にはあてはまらない、まさにこういうCD集を待っていました!

その内容を説明させていただきます。70年代のウエストコースト&シンガーソングライターの作品64曲を収めたコンピレーション・アルバムなのですが、その選曲もさることながら、題名にあるようにアコースティック・ギターにとことんこだわっていて、全曲に歌詞とギター・コードを掲載。その演奏におけるにワンポイント・アドバイスまで付いています。つまり聞きながら、ギターで演奏し、一緒に歌えるという画期的なアイデアが盛りもまれたCD集なのです。
制作の背景については詳しい話が、載っていますので、興味のある方は読んでもらいたいのですが、なかなか興味深い話が、繰り広げられていて、特に洋楽のアコギ好きな、オヤジのために作られたアルバムなんてところは泣かせますね。
それとおもしろかったのがアーティスト公認コードの話。レコード聞きながらコード探しても何か響きが違うことがあるんですね。「コレどうやって押さえてるんだろう」と思い悩むことがあるんですが、これをアーティストに聞いてコードダイアグラムまで掲載しているところがスゴイですね。あとオープンチューニングの曲なんかはちゃんと記載してありますし・・。まさに聞いて楽しむもよし、一緒にギター弾きながら歌うのもよし。
これはすぐれモノです。是非ギター弾きは一家 に一Box、常備して損はありません。

日本のワーナーがアメリカのライノと著作権契約を結んだことをきっかけに実現した企画だそうです。ということは日本だけの発売。(日本語の解説ですからあたりまえか・・)。
SSWへの愛情があればこその企画です。ギターを久しぶりに弾いてみようかなと思われた方は是非、手にとって見てください。詳しくはここを、ご覧あれ。

ただひとつだけ、難をいえば、i-Tuneに取り込むときに、ディスクの曲名やアーティスト名が表記されないことですかね。

収録曲はというと
Disc 1
1. クロスビー、スティルス&ナッシュ / 時は流れても 
2. リトル・フィート / ウィリン
3. ピーター、ポール&マリー / 悲しみのジェット・プレーン
4. ウォーレン・ジヴォン / カルメリータ
5. エミルー・ハリス / マイ・ソングバード
6. ダリル・ホール&ジョン・オーツ / ラスヴェガス・ターンアラウンド
7. ボニー・レイット / ラヴ・ハズ・ノー・プライド
8. ニコレット・ラーソン / 恋するメキシカン
9. バッファロー・スプリングフィールド / フォー・ホワット
10. J.D. サウザー / あてにならない恋
11. フィフス・アヴェニュー・バンド / ナイス・フォークス
12. トム・ラッシュ / サークル・ゲーム
13. ジェリー・ジェフ・ウォーカー / ミスター・ボージャングルズ (シングル・ヴァージョン)
14. ファイアーフォール / イット・ダズント・マター
15. ジェフ・マルダー / テネシー・ブルース
16. ジュディ・コリンズ / 青春の光と影


Disc 2
1. オーリアンズ / ダンス・ウィズ・ミー
2. ライ・クーダー / トリニダードのF.D.R
3. カーリー・サイモン / 幸福はどこへ
4. ジョン・セバスチャン / ウェルカム・バック
5. マリア・マルダー / エニー・オールド・タイム
6. アンドリュー・ゴールド / そよ風のきみ
7. トム・ウェイツ / オール・55
8. バーズ (オリジナル・バーズ) / フル・サークル
9. ネッド・ドヒニー / ハリウッドからの葉書
10. ウェンディ・ウォルドマン / ウェスタン・ララバイ
11. クレイジー・ホース / もう話したくない
12. ナンシー・グリフィス / ロッキーを越えて
13. プレインソング / アメリア・エアハート最後のフライト
14. アズテック・トゥー・ステップ / キリング・ミー
15. グラム・パーソンズ&エミルー・ハリス / ラヴ・ハーツ
16. リンダ・ロンシュタット / コロラド


Disc 3
1. ドゥービー・ブラザーズ / リッスン・トゥ・ザ・ミュージック
2. アメリカ / 名前のない馬
3. アーロ・ガスリー / シティ・オブ・ニューオリンズ
4. ブレッド / イフ
5. ヴァン・モリソン / クレイジー・ラヴ
6. シールズ&クロフツ / 想い出のサマー・ブリーズ
7. フリートウッド・マック / オーヴァー・マイ・ヘッド
8. ケイト&アンナ・マッガリグル / ハート・ライク・ア・ホイール
9. ニッティ・グリッティ・ダート・バンド / ロング・ハード・ロード
10. ダニー・オキーフ / グッドタイム・チャーリー
11. ピーター・ゴールウェイ / マイ・スウィートハート・ウォズ・マイ・フレンド
12. イングランド・ダン&ジョン・フォード・コーリー / 秋風の恋
13. ジョン・プライン / ハロー・イン・ゼア
14. ロドニー・クロウエル / アメリカン・ドリーム
15. イアン・マシューズ / セヴン・ブリッジズ・ロード
16. リッキー・リー・ジョーンズ / 恋するチャック


Disc 4
1. サイモン&ガーファンクル / サウンド・オブ・サイレンス (オリジナル・アコースティック・ヴァージョン)
2. ダン・フォーゲルバーグ / バンド・リーダーの贈り物~ワシントン・ポスト・マーチ
3. J.D. サウザー / ユア・オンリー・ロンリー
4. ニルソン / マザー・ネイチャーズ・サン
5. デイヴ・メイソン / エヴリ・ウーマン
6. カーラ・ボノフ / ウォーター・イズ・ワイド (悲しみの水辺)
7. バーズ / ジャマイカ・セイ・ユー・ウィル
8. クリス・クリストファソン / ミー・アンド・ボビー・マギー
9. マイケル・マーフィー / ワイルドファイアー
10. リヴィングストン・テイラー / ファースト・タイム・ラヴ
11. デイヴ・ロギンス / プリーズ・カム・トゥ・ボストン
12. ポコ / ジャスト・フォー・ミー・アンド・ユー
13. デヴィッド・ブロンバーグ / テネシー・ワルツ
14. ジェニファー・ウォーンズ / アイ・ノウ・ア・ハートエイク
15. ガイ・クラーク / L.A. フリーウェイ
16. ロギンス&メッシーナ / プー横丁の家

すごいですね。このラインナップ。言葉を失います。
名曲ばかりで、どれを取りあげようか迷うのですが、今回はボニー・レイット のヴァージョンの”ラヴ・ハズ・ノー・プライド”でいきます。
作者はエリック・カズ&リビー・タイタス、不朽の名作です。作者であるエリック・カズの結成したアメリカン・フライヤーやリビー・タイタスもソロアルバムでやっていますが、その他、リンダ・ロンシュタット、リタ・クーリッジ,トレイシー・ネルソン、リン・アンダーソンなど女性シンガーが好んで取り上げています。何故、女性シンガーに好まれるかというと、「愛にはプライドなんてないの、あなたに再び会うためなら、すべてを捧げるわ」という、まさに直球勝負のラブソングだからです。

(Bonnie Raitt w. Crosby and Nashによる”Love Has No Pride”)

2010年3月4日木曜日

北国の静寂~Kings of Convenience

Artist:キングス・オブ・コンビニエンス
Album:Declaration Of Dependence
Song:24-25








 降り注ぐアルペジオのギターの音、合間から聞こえてくる、澄んだハーモニー「Kings of Convenience」と題された、二人の似顔の書かれた白いシンプルなジャケのCD。その中の1曲、”Winning A Battle, Losing The War”を初めて聞いた時の驚き。まるで現代に蘇ったS&G。その音はどこまでも、透明で、回りの空気さえも塗り替えてしまうほどの色彩感でした。
 
 Kings Of Convenience
 ノルウェーの第二の都市ベルゲンで1999年の世紀末に、結成されたアコースティック・ポップデュオ。アイリック・ボー(Eirik Boe)、アーランド・オイエ(Erlend Oye)と日本語にすると発音しにくい名前の二人は、少年時代から友達同士。 出会ったのは11歳の頃。16歳の頃にバンド「スコッグ」を結成(THE CUREの影響を受けたサウンド だったらしい)するが、消滅。その後ふたりはイギリスに移り生活を始める。 ロンドンで学び、バンドとして活動をするうちに、ふたりはデュオとして 本格的な音楽活動をスタートする。 ロンドン、マンチェスター、そして地元ベルゲンでの音楽的交流を経て 1999年に本国ノルウェーにてデビュ-作となる7インチシングル「BRAVE NEW WORLD」を 地元ベルゲンのレーベル:ELLET からリリース。2000年に入ると US のインディレーベル:KINDERCORE から初のアルバム「KINGS OF CONVENIENCE」をリリースした。 とあります。
この白い似顔絵ジャケのCDの後、ついにメジャー・デビューをはたし、現在までに
Quiet Is the New Loud - (2001)
Versus - (2001)※リミックス・アルバム
Riot on an Empty Street - (2004)
3枚のアルバムを発表しました。

 その後、しばらく音沙汰がなかったのですが、昨年、アルバム「Declaration of Dependence 」(2009)を久しぶりにリリースしました。時は流れても彼らの音楽は2000年のインディーズ時代と少しも変わりません。そこがとてもウレシイところでもあります。初期の曲とこの最新アルバムの曲を聞き比べてみて下さい。

 二人の、音楽にはいくつかの特徴があります。まず2台のギターのアンサンブル。ハイコードの奏でる、アルペジオは開放弦の響きを損なわないように構成され、すでに、イントロからある色彩で染めあげられています。さらにそれに絡むようにロー・コードのガットギターの音が間を埋め、まるで一台の楽器から奏でられているような錯覚をおこさせます。もう一つは、歌の隙間です。コーラスの間の空間に漂う、ギターの心地よい余韻は、まるで、ノルウェイの森や湖の風景や張りつめた冷気をそのまま、運んできてくれるようです。
 まさにノルウェイの風土に根ざした音楽ー「北国の静寂」が生み出した音楽。そんな気がします。

(最新アルバムより”24-25”)

(初期の曲”Winning a battle, losing the war”)