Artist:鈴木慶一とムーン・ライダース
Album:火の玉ボーイ
Song:スカンピン
たまには、邦盤のものもいいんじゃないかと思いまして、1975年、鈴木慶一さんのデビューアルバムでもあり、後のムーン・ライダースの礎になったこのアルバムを引っ張り出してきました。メンバーは他にティン・パンアレーなどその当時の、トップ・ミュージシャンがこぞって参加しておりまして、まさに日本のロック史上における名盤にふさわしい1枚でございます。
(これ、デビュー直前の矢野顕子さんや南佳孝さんも手伝っています。)
初めて聞いたのは、大学2年のころですか、たしか1978~79年ごろでしょうか、ちょっとレトロなジャケに惹かれて、多分アナログの再発盤を買った記憶があります。ジャケの秀逸さに違わず内容も、アメリカ音楽のいい部分を消化して、日本的な感覚で再構築している感じました。ヴァン・ダイン・パークスの万華鏡のようなカラフルさや、モダンさ、もっといえばその頃の”東京”という都市をレコードの中にギュッと詰め込んだアルバムだったような気がします。九州の田舎に育った私はそれが非常にまぶしく、うらやましくもありました。「コンプレックス」といえるのかどうかわかりませんが、田舎者のわたくしには、このアルバムほど、その当時の”東京”という都市を感じさせるアルバムはありません。
(今となってはそれもレトロな、懐かしい時代となってしまったのですが・・。)
”伽藍(がらん)とした、防波堤ごしに
緋色の帆を掲げた都市が
碇泊してるのが見えたんです”
”ひび割れた、瑠璃(ガラス)ごしに
摩天楼の衣擦(きぬず)れが、
舗道を浸すのを、見たんです”
(松本隆、はっぴえんど”風をあつめて”より)
はっぴいえんどの”風をあつめて”は非常に洗練された、現代詩であり、ある部分”東京”を感じさせる歌詞や曲なんですが、ちょっと下町というか、平屋の屋根ごしにみるビル街って感じがするんですね。
”俺たちいつまでも、星屑拾うルンペン
夜霧の片隅に、今日も吹き溜まる”
”俺たちいつまでも、悲しみあつめるルンペン
破れた恋や夢を、今日も売り歩く”
(鈴木慶一、”スカンピン”より)
一方”スカンピン”は、平素なわかりやすい言葉で書かれているんですが、そのビル街のなかで蠢(うごめ)いている人の視点から書かれたような印象をうけるんです。
フィリー・ソウルっぽいイントロからして、何か違うんですね、その歌い方といい、都会の匂いというか、コンクリートの壁の匂いがするんです。その感覚はその当時、自分の中には、ないもののような気がしていました。
いずれにせよ、学生の頃、酔っぱらっての下宿への帰り道、「スカンピン、スカンピン俺たちは、スカンピン、スカンピン、いつまでも」と、何回も口ずさんでいた、あの頃が懐かしく思えます。
鈴木慶一さんは最近のアルバム「ヘイト船長とラヴ航海士」の中で、自らの人生をふりかえるようにこう歌っています。
頭の中でふるえる文字の少ない札束が
長く生きてきたお前の数少ない友人だ
価値はある
あったモノが無くなったのか
最初から 無いのか
スカンピンだ 拾う星屑あるのならば まだいい
スカンピンだ 吹き溜まる場所あるのならば まだいい
スカンピンだ 集める悲しみあるのならば まだいい
スカンピンだ 煙草一箱ほどの一生 だったかな
(鈴木慶一、”Skanpin Again”より)
理想と現実のギャップを充分味わったこの年になってはじめて、この”Skanpin Again”の歌詞の意味がじ~んと心に響いてくるんですが、だからこそ、なおさらあの時代が輝いて見えるのかもしれません。
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