2011年6月8日水曜日

不遇な時でも~Neil Sedaka

Artist:ニールセダカ
Song:Cellophane Disguise
Album:Let The Good Times In


不遇な時期が人生にはかならずあります。そんな時、どう対処していくのかが、その後の人生を大きく左右することがあるものです。今回はそんなお話。

ニール・セダカ。名前だけは誰でもご存じのだと思います。
50年代〜60年代のアメリカン・ポップスの黄金時代、<ブリル・ビルディング・ポップス>の一時代を築いた「歌職人」と呼ぶにふさわしいヒット・メイカーの一人です。
所謂、シンガー・ソング・ライターのはしりでもあり、1959~1962年までに放ったヒット曲はざっとこんなところ。
恋の日記(The Diary、1959年、全米チャート第14位)
おお!キャロル(Oh! Carol、1959年、全米チャート第9位)
星へのきざはし(Stairway to Heaven、1960年、全米チャート第9位)
きみこそすべて(You Mean Everything to Me、1960年、全米チャート第10位)
カレンダー・ガール(Calendar Girl、1960年、全米チャート第4位)
すてきな16才(Happy Birthday Sweet Sixteen、1961年、全米チャート第6位)
ボーイ・ハント(Where The Boys Are、1961年、歌・コニー・フランシス、全米チャート第4位)
小さい悪魔(Little Devil、1961年、全米チャート第11位)
悲しき慕情(Breaking Up Is Hard To Do、1962年、全米チャート第1位、グラミー賞ロックンロール部門ノミネート、1976年ジャズ風リメイク版、全米チャート第8位、アダルトコンテンポラリー部門1位)
可愛いあの子(Next Door to an Angel、1962年、全米チャート第5位) -出だしのスキャットは1968年に日本で流行ったザ・ダーツの「ケメ子の唄」で使われている。

 ざっと眺めるだけでも、メロディーがハナ唄で出てくるぐらい、我々、日本人にも馴染みのある曲達です。

 しかし、優れたヒットメーカーであった彼にも、不遇を囲っていた時期がありました。1965年、ビートルズが全米を席巻。その後に続けとばかり英国のグループが全米ヒットチャートを賑やかすようになります。後に<ブリティシュ・イノベーション>とよばれるようになりました。その後、ベトナム戦争は激化一途をたどり「ウッド・ストック・フェス」に代表されるようなロックの時代となっていき、<ブリル・ビルディング・ポップス>の一時代を築いた「歌職人」達の音楽は、使い古された、流行おくれの音楽と見なされ、瞬く間にヒット・チャートからその名前が消えていきました。
キャロル・キング(曲)&ジェリー・ゴフィン(詩)、ジェフ・バリー&エリー・グリニッやバーリー・マン(曲)&シンシア・ウェイル(詩)でさえこの時代大きなヒットを放つことはありませんでした。
ニールも同様で、素晴らしい才能と輝かしい実績はあるものの、アメリカの音楽業界の中で生きていくには、そうとう厳しかったらしく、ついには他のスターの前座やドサ廻りをやったりしています。
 そんな時期でも、彼は歌を書くことを、決して辞めたりしませんでした。驚くべきことに、「不遇な時代」でも彼のつくる歌は確実に進化していました。
2005年にリリースされたCDが手元にあります。”Let The Good Times In”というタイトルの2枚組のCDはオーストラリアから発売されたもので、1960~1975頃のニールのデモ・レコーディング集です。60年後半のまさにこの「不遇の時代」に作られた売り込みの為に作ったデモ曲(後にいくつかの曲は他のアーティストが取りあげることもありました。)が多数収録されておりますが、この内容が素晴らしいものでした。特にディスク2の楽曲のクオリティの高さは感動モノです。

実は今回取り上げた曲は’68年にUKからリリースされたアルバム「Working on a Groovy Thing (Sounds of Sedaka)」にも収録されていましたが、当時まったく注目されることもなく(デモ集ですからね)、しかもアルバムも本国アメリカでは発売することもままならない状態でした。そのアルバムが丸ごとこのCDに収められているわけですが、デモ集とはいえ、ニールの・ソロアルバムといってもおかしくないぐらい、バックのアレンジもしっかりしています。

このように60年後半は、自分のソロアルバムさえ出せない状況でした。
しかし、転機は訪れました。70年代初頭に自分の生き方や個人的な思いを歌にするSSWブームがおこってきます。キャロル・キングやバリー・マンの復活に後押しされるように、往年のヒット・メーカーが再び、脚光をあびることになります。

ニールも71年に「Emergence (ニール・セダカ・ナウ)」72年には「Solitaire」という復活を宣言するような好盤をリリースしますが大きなヒットにはいたらず、新規一転、イギリスへ活動の場を映すことになります。73年に「The Tra La Days Are Over (ピース・アンド・ラヴ)」。そして、ついに74年にアルバム「Laughter in the Rain (雨に微笑を)」の中の同名曲が全米No.1に輝きついに復活を果たします。
それは、約10年の長きにわたる暗いトンネルでした。
その後、バッド・ブラッド(Bad Blood、1975年、全米チャート第1位、歌にエルトン・ジョンが参加)、愛ある限り(Love Will Keep Us Together、1975年、歌・キャプテン&テニール、全米チャート第1位、グラミー賞最優秀レコード賞受賞) などヒットで第二の黄金時代を迎えることになります。

 もし、この「不遇の時代」に歌を書くのをやめたり、昔の栄光にしがみついて手を抜いた仕事していたら、その後の復活はあり得なかったように思います。天賦の才能もあるでしょうが、「不遇の時代」に書かれた曲であってもメロディーのもって行き方といい、サビの盛り上げ方といい、後の作品に些かも引けを取らない、素晴らしい作品達だと思います。
「手を抜いた仕事はしちゃあ、お天道様に申し訳ねえやな」という、他の<ブリル・ビルディング・ポップス>の「歌職人」達にも言えることですが、これが「職人」としての意地と心意気そして、底力なんですね。

次回でちょうど、このブログも記念すべき100号を迎えることになります。いままで、私の駄文にお付き合いいただき、ブログを見ていただいております皆様にあらためて感謝いたします。

(”Cellophane Disguise” by Neil Sedaka)


("Summer Symphony")


("Good Morning Means Goodbye" by Peppermint Rainbow これも長いことCD化もされず捨て置かれたセダカ作品。2008年にやっとCD化されました。) 


("Rosemary Blue" by Neil Sedaka from「Emergence」)
中学の時に買った日本盤EPを聞いて以来、時々取り出しては聞いているセピア色のアルバムみたいな曲

5 件のコメント:

  1. 私にとっても70年代のニールは特別な存在です。100回記念にニールを取り上げたことに深く共感します!!
    しかしCD化は全くすすみませんねぇ~。レスリー・ゴアもナイスですよ!

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  2. ニールを初めて聞いたのが71年の「Emergence (ニール・セダカ・ナウ)」のEP盤(4曲入り)だったというのも何かの巡り会わせだったのかもしれません。この時代の作品、探せばまだまだありそうですね。レスリーゴーアの"Summer Symphony"もCD化されたものはBoxにしか収録されていないようです。60年後半から75年あたりまでのNeil Sedakaソング・ブックなんてUKあたりから発売されませんね。ちなみに100号は次回になります。

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  3. のっぽのサリー2011年10月3日 16:42

    「Rosemary Blue」…とっても美しい曲ですね…
    初めて聴きましたが、あんまりきれいで、涙が出てきました…
    CDにはなっていないのでしょうか?
    昨日、ちょうど車の中でニール・セダカを聴いていたので覗いてみましたら、こんな素敵な曲に出会えました。
    感謝です。ありがとう(;‐;)
    私、数年前まで、ニール・セダカのこと、あまり知らなくて、女性だと思い込んでいたんです。(セダカファンの方々、無知でごめんなさい)
    この曲も、たぶん、知らずに聞いていたら、女性のボーカルだと思うでしょうね。
    本当に美しい曲ですね…
    「雨に微笑を」が大好きだった友を思い、涙が出ました…

    p.s.ソフトバンクの優勝、おめでとうございます。
    苦労人、内川の涙にもらい泣きしました。
    今まで内川に打たれてばかりで、この~!と思っていましたが、ちょっぴりファンになりました。(^^;

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  4. 確かに、この声、初めて聞いたら、ほんと女性だと思うかもしれませんね。”Rosemary Blue”を聞いたのは中学生の時でした、美しいメロディーです。Neil Sedakaが60年代のポップスを代表するソング・ライターと知ったのはその後、つまり70年代の低迷していた時代の方が強く印象に残っているんです。今は廃盤かもしれませんがアルバム”Solitaire / Emergence”が2in1のCDで発売されてたと思います。
    SBやってくれました。しかしまだクライマックス・シリーズが待ってますからね。内川ほんとに嬉しかったんでしょうね・・・。

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  5. のっぽのサリー2011年10月3日 20:54

    「Solitaire/Emergence」アマゾンで見つけました。
    早速購入しましたよ♪
    ありがとう!(^^)

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