Song:San Francisco Bay Blues
Album:Phoebe Snow
確か1974~75年頃だったと思います。ラジオから流れてきた曲に思わず聞き入ってしまいました。アコーステックギターの深い音色にそれを引きずるようなレイドバックしたベース。Jazzyなイントロが雰囲気をつくり、そして歌。その歌声は今まで聞いたことがない歌い方と独特のヴィブラート、その曲のオリジナルが典型的なフォークソングである”San Francisco Bay Blues”と気づくまでに時間がかかりました。それほど、原曲のメロディーが、このヴォーリストにより咀嚼され独自の歌に生まれ変わっていたからでした。
歌っていたのはフィービー・スノウ(Phoebe Snow)。レオンラッセルらがレーベルの設立に深く関わっていたシェルターレコードからのファーストアルバムでした。正直、当時の高校生だった私は、まだこの曲の本当の良さや深みをよく理解できませんでした。自分の中に、この曲がここちよい居場所を得るまでに、色々な人生経験とそれなりの時間が必要だったような気がします。そして今、ちょっと寂しい夜には、時々その居心地のよい場所に帰っていきます。何杯かのバーボンと共に・・。
フィービー・スノウは1952年NYのマンハッタンで黒人の父とユダヤ人の母との間に生まれました。15才の高校生の時に片思いの相手からギターを習い、カントリー・ブルースやジャズなどに開眼します。最初はグリニッジビレッジのフォーク・クラブを巡り演奏していましたが、1972年半ばにニューヨークのビター・エンドのアマチュア・ナイト・ショーに出た時に、シェルター・レーベルのプロデューサーに認められ、同レーベルと契約しました。
そして1974年の6月にこのファーストアルバムをリリースしました。
(日本盤はジャケットが少し米国盤と違っており、日本盤の方がよかったように思います。)
参加メンバーさっとながめるだけでも、いかに破格の扱いだったかがわかります。
David Bromberg-Guitar (Acoustic), Dobro, Guitar/ Dave Mason-Guitar/The Persuasions-Vocals/Phoebe Snow- Guitar (Acoustic), Vocals/Ron Carter-Bass/ Bob James-Organ, Keyboards/Teddy Wilson-Piano/Chuck Israels-Bass/ Ralph MacDonald-Percussion/Steve Burgh-Guitar/Chuck Domanico-Bass/ Steve Gadd- Drums/Hilary James- Organ/ Hugh McDonald-Bass, Guitar (Electric)/Steve McDonald-Guitar (Electric)/Steve Mosley- Percussion, Drums / Margaret Ross-Harp/Zoot Sims-Saxophone, Sax (Tenor)/Chuck Delmonico-Bass など錚々たる顔ぶれです。そしてプロデュースは巨匠フィル・ラモーン(Phil Ramone)。
特にズート・シムズ、テディ・ウィルソン、ロン・カーター、チャック・イズラエルなどジャズ界でも超一流のメンバーが一同に会しサポートしたアルバムなどまずありえないことです。さらにボブ・ジェームス、スティーブ・ガッド名前を列挙するだけでも目眩がします。こんな豪華メンバーに囲まれながらも決してそれに臆することなく、フィービーのヴォーカルは同等、いやそれ以上の輝きを放っているように思えました。
同アルバムにも収録されている75年に発表したシングル“Poetry Man”が全米チャート5位を記録し、〈グラミー賞〉に〈最優秀新人賞〉にノミネート。順調すぎる滑り出しでした。
その後もフィル・ラモーンのプロデュースにて2枚目のアルバムをリリース。4作目の「Never Letting Go」はアルバムのジャケの素晴らしさも話題になりました。
しかし、私生活においてはご主人の自殺やお子さんが脳性マヒで生まれたことなどがあり決して順風満帆というわけではありませんでした。その後子供さんの介護のため、一時ステージから離れコンスタントにはアルバムもリリースされなかったものの、そのクオリティーが低下することはありませんでした。そして最愛の娘さんも2007年に他界。一時は復活しましたが、フィービー本人も昨年の一月に脳溢血で倒れ闘病生活を続けていたそうです。そして合併症にて先月、4月26日帰らぬ人となってしまいました。享年58才、若すぎる死でした。
二枚目のアルバムの「Second Childhood」には「夜の調べ」という邦題がついていましたが、まさに彼女の音楽そのものが「夜の調べ」でした。
今夜は”San Francisco Bay Blues”を聞きながら、謹んで冥福を祈りたいと思います。
(”San Francisco Bay Blues” by Phoebe Snow 誰も彼女のようには歌えないまさにワン・アンド・オンリー)
("Never Letting Go" by Phoebe Snow 4作目のアルバムよりスティーブン・ビショップ作)
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