2011年4月14日木曜日

虹の袂そして希望~Rickie Lee Jones

Artist:リッキー・リー・ジョーンズ
Album:Girl At Her Volcano
Song:Rainbow Sleeves

 大好きなSSW、酔いどれ詩人トム・ウェイツの曲の中に、ある人のために作った曲があります。そしてかつてこの二人は恋人の関係にありました。
タイトルは”虹の袂(たもと)-RainbowSleeves"。そう、歌っているのはリッキーリー・ジョーンズ。この数日、この曲に囚われています。
その曲は静にこんな歌い出しで始まります。

Rainbow Sleeves
(by Tom Waits 1978)

You used to dream yourself away each night
To places that you'd never been
On wings made of wishes
That you whispered to yourself
 自分がささやく望みでできた翼に乗って
行ったことのないところに飛んでゆく夢を
君はいつも見ていた

Back when every night the moon and you
Would sweep away to places
That you knew
Where you would never get the blues
決して憂鬱を感じないとわかっているところへ
夜ごと、月と君が運ばれていっては戻ってくる

Well now, whiskey gives you wings
To carry Each one of your dreams
And the moon does not belong to you
今や君の夢を運ぶのは、いつもウィスキーにもらった翼で
月もすでに君のものではない

But I believe
That your heart keeps young dreams
Well, I've been told
To keep from ever growing old
And a heart that has been broken
Will be stronger when it mends
でも君の心は若いころの夢をもちつづけていると私は信じている
絶対に年をとってはいけないと私は云われてきた
そして、傷ついた心は癒された時、さらに強くなると

Don't let the blues stop you singing
Darling, you've only got a broken wing
憂鬱のせいで歌うのをやめたりしないでくれ
君は翼が片方折れただけなんだよ
Hey, you just hang on to my rainbow
Hang on to my rainbow
Hang on to my rainbow sleeves
だから、私の虹につかまってくれればいい
私の虹にしっかりつかまって
虹色のたもとへ連れて行こう

 このブログで取りあげたことのあるトム・ウェイツ(→夜をさすらう者たち)は16才で高校を中退し1970年頃、LAへやってきました。ピザ屋の店員として働きながらその合間に曲をつくりSSWとして成功する事を夢見ていました。嗄れた歌声、Jazzyなピアノ、しがない人々の心情をユーモラスに描きながらも温かい視線で見つめる独特な歌詞世界はすでにデビュー前に完成しています。(この頃の音源は1990年代にリリースされたコンピレーション・アルバム『アーリー・イヤーズVol.1』『アーリー・イヤーズVol.2』で聞くことができます。)そして1972年、当時はまだ新興レーベルだったアサイラム・レコードと契約し、1973年にアルバム『クロージング・タイム』でデビュー。商業的には成功とはいかなかったものの、同作収録曲「オール'55」が、イーグルスに取りあげられるなどして徐々に注目されるようになります。
一方リッキー・リー・ジョーンズも19才で家出をして、LAへやってきました。彼女は、住む家もないまま、ウェイトレスとして働き、LAの市内各地のコーヒー・ショップなどで歌いながらチャンスを探し、待ち続けました。そんなある日、L.A.でも有名なクラブ、トルヴァドールで歌うチャンスを得ます。その時、その店のキッチンで働いていたのが、後の彼女の大ヒット曲「恋するチャック」のモデルとなったチャック・E.ワイズでした。チャックは自分の友人であるトム・ウェイツを彼女に紹介し、そして二人は恋に落ちました。
トムのアルバム『異国の出来事』(1977年)、『ブルー・ヴァレンタイン』(1978年)にはトムとデビュー前のリッキー・リーとの2人の写真がジャケットに使われています。しかし幸せな生活も長くは続きませんでした。皮肉なことに彼女の作った”イージー・マネー”という曲がリトル・フィートを脱退し、ソロ・アルバムを制作中だったローウェル・ジョージの耳にとまりアルバムに採用。彼女の名は一気にL.A.中に広まりました。ワーナーのテッド・テンプルマンとレニー・ワロンカーという大物コンビが、さっそく彼女を訪れ、あっという間に契約話しもまとまり、デビュー・アルバム"Ricky Lee Jones 浪漫"(1979年)が発売されます。そしてグラミー賞を受賞。彼女はスターダムへの道を歩き始めます。二人の間に何があったかはわかりませんが、この時二人は別々の道を選択することになります。(この時の別れを情景をトム・ウェイツは後に”ルビーズ・アームズ”という美しく切ない曲にしています。)

そして二人の思い出の曲としてこの”虹の袂(Rainbow Sleeves)"が残されることになりました。リッキー・リー・ジョーンズの2ndアルバム「パイレーツ」(PIRATES)でサブタイトルをSo Long Lonely Avenueとしていますが、これはトム・ウェイツと別れ、ロスを離れニューヨークへと向かうリッキー・リー・ジョーンズの心情が表されていると言われています。そしてその表題曲にはこんな一節があります。"So I'm holding on to your rainbow sleaves"(あなたの作った「虹の袂」を忘れない)と・・・
そしてその約束を果たす様にアルバム「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」(原題:GIRL AT HER VOLCANO)には「虹の袂」が収録されています。録音は1978年12月4日。つまり二人がLAで暮らしていた、まさにその頃にレコーディングされていたのです。

悲しい別れの後の思い出の曲でありながら、この曲には希望があります。傷ついた心=壊れた翼をもった19才の女の子は、彼のこの曲で少しずつ成長しながら力強く立ち上がり、希望=虹の袂への道を歩き出したからこそ、この曲のもつ切なさがなおさらに心に浸みてきます。

 今度の震災で多くの命が失われました。きっといつか失われた命が、僕等がかつて見た「虹の袂」(→素晴らしい虹)のように希望と幸せを与えてくれることを信じながら、この曲を繰り返し聞くことにします。

(Rainbow sleeves (written by Tom Waits) by Ricky Lee Jones)

3 件のコメント:

  1. のっぽのサリー2012年4月17日 12:16

    なんとも切なくて、美しい歌ですね・・・(;;)
    別れた人の歌を歌うって、すごいな…
    なかなか出来ないことですよね。
    つらかった時期を表現するには、もっと多くの勇気が必要ですもの…。

    日本はまだまだ歩き始めたばかり…
    こんな大事なときに、国民感情を逆なですることばかり、しないでほしいですよね。
    こんなことしてたら、虹の袂には行けないよ…

    最近、物忘れが激しくなってきたので、読んだ本を書きとめておくブログを始めました。(ちょっと真似っこ?)(^o^;
    まだ、3ページしか書いてないけど、良かったら、覗いてくださいね。(^-^;
    (「線路沿いの読書日記」です)

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  2. のっぽのサリーさん
    「虹の袂」には幸せが待っているとよく歌われていますね。
    ”Over the rainbow"や”Rainbow connection"にも・・・。
    古来、人々は美しい虹に何か神秘的なものを感じて、祈りを捧げていたのかもしれませんね。そんな願いが少しでも実現する社会にしてもらいたいものです。
    ブログ始められたんですね。覗かせて頂きます。
    いつもコメントありがとうございます。

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  3. あなたが今村慎一さんですか。
    そんなに自分のことをあちこちに宣伝したいのですか。堪忍して下さい。

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