2011年7月11日月曜日

窓辺の唄~Audrey Hepburn

Artist:オードリー・ヘップバーン
Song:Moon River
Album:Music From The Films Of Audrey Hepburn

「ムーン・リバー」シンプルでいて気品のあるメロディーを持った曲です。
ご存じとは思いますが、この曲は1961年の映画「ティファニーで朝食を」の挿入歌として発表されその年のグラミー賞、アカデミー歌曲賞を受賞しています。
作曲:ヘンリー・マンシーニ、作詞はジョニー・マーサー 。このコンビ、翌年の1962年も「酒とバラの日々」(Days Of Wine And Roses)でアカデミー歌曲賞を受賞、1964年にはグラミー賞を獲得していて、すでに二人とも故人となっていますが、この2曲は二人の代表曲と言っても過言ではありません。(1963年には「シャレード」も二人で書いています。3年連続の受賞とはいかなかったようです。)
「ムーン・リバー」いったいどれぐらいのカバーがあるのでしょう。おそらく数百いや千曲ぐらいはあるのではないでしょうか。カバーは多数あれど。やはりこの曲はヘップバーンが窓辺でギターを弾きながら歌うあのシーン抜きには語れません。というかあの映画のシチュエーションで歌われるからこそ、じーんと胸に染みてくるのです。それはこの歌詞の持つ本当の意味を解き明かしていくことでわかってきます。

かつてこの曲のカヴァーで有名なアンディ・ウィリアムズはTVショーでこう発言しています。「実はこの歌詞の意味には判らない所があります。でも歌ってみます」わずか1番だけの短い歌詞ですが、訳詞者泣かせの曲であり原曲を歌っている歌手でさえ、理解できない所があるようです。

Moon river,wider than a mile
I'm crossing you in style some day
Oh,dream maker,you heart breaker
Wherever you're goin',I'm goin' your way

Two drifters,off to see the world
There's such a lot of world to see
We're after the same rainbow's end,waitin''round the bend
My huckleberry friend,Moon river,and me

作詞者であるジョニー・マーサー (Johnny Mercer )はアメリカを代表する作詞家です。(時々曲も書いています)彼は、1909年南部のジョージア州サバナ生まれました。正式な音楽の訓練を受けた事はないようですが、生後6ケ月で彼の叔母がハミングで歌を聴かせたため音楽の好きな子供となり、11,2才の頃には一度聴いた曲すべてを憶えられることができるようになったとあります。19才の時,夢を持って南部の田舎町からニューヨークにやってきます。最初は俳優を志しましたが、すぐに歌手と歌作りに転向しました。そこでビッグバンドに雇われて21才の時、初めての詩がミュージカルで使われました。そこで多くの作詩、作曲家と知りあい、彼も作詞に専念するようになり、多くの曲をミュージカルのために作詩するようになります。
「P.S, I Love You 」(1934)
「Goody,Goody 」(1936)
「Too Marvelous For Words 」(1937)
「Jeepers Creepers 」(1938)
「I Thought About You 」(1939)
「Day In,Day Out 」(1939)
1940年代には、作曲家ハロルド・アーレンと組んで
「Blues In The Night」
「That Old Black Magic」
「One For My Baby」
「My Shining hour」
「Come Rain Or Come Shine」
ジェローム・カーンとは
「I'm Old Fashioned 」(1942)
「Dearly Beloved」(1942)
などを書いています。作曲家としては「Dream」(1944)が有名です。
また訳詞や後に詩を付けた作品としては、
「Autumn Leaves 」(枯葉) (1947,英詞1950)
やデューク・エリントンとビリー・ストレイホーン書いた
「Satin Doll」(サテン・ドール) (1953,歌曲として1958)などがあります。
約1500曲を世に送り出し、その多くの曲がスタンダード・ナンバーとなっていますが実業家としても有名でレコード会社「キャピトル」の創設者の一人でもあり、片田舎から出て来た青年が夢を叶えるというまさにアメリカン・ドリームを実現させた人でもあります。

ヘップバーンが演じるホリー・ゴライトリーも南部の田舎町から夢をもって大都会へやってきた小悪魔的な無邪気さと妖精のような純真さを併せ持った娘でした。そして彼女には孤児だった悲しい過去があり、田舎に残した弟に望郷の想いを持っていました。
「望郷の想い」。若かりし頃のジョニー・マーサー と同じように・・・・。

まず、歌詞の中に出てくる「Moonriver」が問題です。文字どおり「月にある川」という意味ではなさそうです。とすれば「月光が水面(みなも)に漂う川」とロマンティックな情景を想像してもいいのですが、それでもピンときません。そうこう悩んでいる時に、マーサー は最初この曲を「レッド・リバー」 とか「ブルー・リバー」とか呼んでいたという記述を発見しました。つまり「Moon river」である必要はなかったということになります。「レッドリバー」とは泥の川つまり南部の川のことを意味します。ひょっとすると故郷の川ということかもしれないと調べてみましたところありました。なんとマーサー の自宅近くを流れていた川「Back River」が別名「Moon River」と呼ばれていたというサイトを発見しました。(Johnny Mercer's Home: Savannah,Ga. & the "Moon River")
やはり、「Moon River」とは実在する「故郷の川」だったんですね。
というわけで第一の謎は解けました。

次は「My huckleberry friend」という言葉です。「ハックルベリー」というとどうしてもマーク・トウェイン「トムソーヤ」の友達、黒人の”ハックルベリー”を連想しますが、どうもそれではないようです。ここは本来の意味”huckleberry”(コケモモの一種で南部にはよくある木)だと思われます。つまりコケモモの木で遊んだ友達”竹馬の友”というマーサー 流の造語だったと考えられます。
以上を踏まえてあえて意訳するとこんな歌詞になると思います。

ムーン・リバー大きくて広い私の故郷の川
いつかきっとあなたを優雅に渡ってみせるわ
私の夢を育み、時には痛みも残していったそんな川
あなたにどこまでだってついていくわ

あなたと私が、漂っているこの世界には
沢山の素敵なことがこんなにあったのね
きっと虹の袂で待っている同じ幸せを
私達は探し求めているんだわ

ムーン・リバーは懐かしい私の友達
そう、ムーン・リバーと私は

こんな意味ではなかろうかと思いますがどうでしょう。

一見、自由気ままに都会で生きているホリー・ゴライトリー。でも一人で自立して行こうと懸命に生きている女性なのです。その決意とけなげさ。
そしてなかば家出同然に故郷を捨ててきたことへの自責と望郷の念。
そんな思いで、あらためてこのシーンをみるとヘップバーンの表情に微妙な暗い影を感じとれるようになり、じーんと胸に染みてきます。

実は、余りに長いこの映画の試写を見た当時のお偉いさん達は、どこか削れるシーンがないかと注文をつけ、この「窓辺の唄」のシーンをカットすることになったそうですが、ヘップバーンが毅然として反対してなんとかカットされずにすんだという逸話が残っています。もしこのシーンがカットされていたら、ジョニー・マーサー のアカデミー賞はなかったかもしれません。アカデミー賞の半分はヘップバーンにあげてもよかったかもしれませんね。

原作者のトルーマン・カポーティはヘップバーンのホリー・ゴライトリーを気に入らなかったようですが、私は映画と小説は別物だと思っていますので「Moon River」は私にとって永遠の「窓辺の唄」であり、それを歌うのはやはりヘップバーン以外にあり得ません。

(”Moon River” by Audrey Hepburn)

2 件のコメント:

  1. 解説を読み、動画を聴いて、ジーンときました(感動)・・・いいですね。

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  2. 高崎さん
    コメントありがとうございました。
    名曲が生まれるまでには何かしらドラマがあるものなんですね。

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