2011年1月19日水曜日

ゴールドベルグ変奏曲~Glenn Gould


Artist:グレン・グールド
Album:バッハ:ゴールドベルグ変奏曲(1955年録音)
    バッハ:ゴールドベルグ変奏曲(1981年録音)
Song :ゴールドベルグ変奏曲:第1変奏

 クラッシック音楽を時々つまみ食いすることがあります。最近のお気に入りはJ.S.Bach。古典です。名前を聞いただけで、音楽室の壁にかけてあった上から目線のあの肖像画を想像して、お堅い音楽と敬遠される方もいらっしゃるかもしれませんね。思えば小学校の音楽室のずらっと並んだ歴代の大作曲家の肖像画、あれがクラッシックに対するトラウマをつくっている可能性ありですね。

 バッハの中でも時々、聞いているのが「ゴールドベルグ変奏曲」。チェンバロの練習曲の中の一つで、バッハの弟子であるヨハン・ゴットリープ・ゴルドベルクが不眠症に悩むカイザーリンク伯爵のために演奏したことが、タイトルの由来となっています。不眠症の為の音楽とはいえ、演奏には高度な技術が必要で、当時ゴルトベルクは14歳の少年であったとされていますが、これについては懐疑的な見方が多いようです。

当時はピアノがまだ無かった時代でしたので、長い間チェンバロで演奏されていましたが、なんといってもこの曲を有名にしたのは、カナダの天才ピアニスト、グレン・グールドでした。1955年、プロデューサーなどの反対を押し切り、デビュー盤としてこの曲を録音。従来、この曲は、どちらかといえば、禁欲的な、抑制された演奏が多く、そのため、ピアノに華やかさを求める演奏者・聴衆はバッハを避ける傾向がありましたが、グールドの演奏は、旧来のバッハ演奏とは異なり、より軽やかで躍動感にあふれ、さらにピアノの豊かな音色が加わり、堅苦しい、眠たくなるというクラシックの概念を覆すものでした。まさに、One and Onlyの演奏です。この1955年のデビューアルバムはその後、ピアニストに限らず多くの音楽家に大きな衝撃を与えました。この55年録音の演奏を聞いていると、不眠症のための音楽というより、体中にアドレナリンが充満して、一気の高揚して、目がさえてしまって、もっと寝られなくなってしまいます。

 賛否両論あったこの1955年のデビューアルバムの衝撃に加え、その後のグールドの音楽へのこだわり、生き方が、論議を呼ぶことになります。例えば演奏するときの姿勢。異様に低い椅子を持ち歩き、それで演奏するため、前のめりの所謂、猫背の姿勢で弾きまくるのです。ピアノの先生がみたら、「あんなの真似したらダメですよ。」絶対注意されそうです。しかも、途中で高揚してくると、手を大きく振ってリズムをとりつつの(まるで指揮者が二人いるようだと、共演した指揮者からからかわれたこともあります。)ノッテくるとメロディーを鼻歌で歌いながら演奏するというなんとも型破りなピアニストで、生涯この癖は直らなかったようです。
演奏会についても否定的で、演奏者は聴衆の求めるままに、自分の意志を曲げて演奏しなければならなくなり、演奏会自体、演奏者と聴衆が対等な関係でないと、一切の演奏会を拒否。レコードの録音のみをおこなっています。そのため、あまり人前にでることがなくなり、隠遁者のようなイメージがありますが、決して孤独ということでなく、それだけ音楽家としてピュアな精神を持ち続けたと言えるかもしれません。現在においては、このグールドのバッハに対する解釈の方が受け入れられるようになってきました。そして1981年に「ゴールドベルグ変奏曲」を再演していますが、同じ人が弾いているのかと思うくらい、演奏が変化してしています。その間に何があり、何を想っていたのか、そんなことに思いを巡らせながら聞き比べてみるのも一興です。

 我がバンドのRockギタリストG氏によれば「ハードロックのギタリストは結構、バロックの音階の運指を練習するんですよ」とのこと、たしかにJazzに編曲しても全然違和感はないと思います。なんたって、西洋音階の基本ですからね。
そんなわけで、「ゴールドベルグ変奏曲」の中でも、もっとも躍動感のある”第1変奏”を聞き比べてみて下さい。

(カールリヒターさんによるチェンバロの演奏、これがオリジナルみたいなもんです。)

(ピアノでの演奏、正確で抑制の聞いた演奏ですが、ちょっと退屈)

(グールドさんによる演奏、新しい解釈ということがわかります、後半は30年あまり後の演奏、若いときの尖った感じは影をひそめ円熟した感じの演奏です。)

(やっぱりギターでこれを再現したいというギター小僧がいるんですね、タッピングという演奏方法。ポーランドのギタリストらしいのですが、左右の指が自由自在。ここまで弾けるのなら、ピアニストでも充分やっていけそう・・・)

4 件のコメント:

  1. おもわずうなりました。Adam Fuiaraのギター。軽やかさと小気味よさがグールドと似ているかな。グールドのうめき声は、もう彼の音楽の一部で、うめき声の入っていない演奏は不思議!今にも聞こえてきそうな感じもしましたが。いいものをありがとうございました

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  2. Estrelas Kiss さん
    グールドさんの「平均律クラヴィノーバ」も甲乙付けがたいくらい素晴らしいです。どうして、惹かれるのかなと考えてみましたら、ひとつは対位法という旋律が好きなのかもしれません。うめき声も彼の音楽の一部という感性は素晴らしいですね、うめき声のピアニストとしては、ジャズの分野にもキース・ジャレットという人がいますが、ちょっと格が違います。
    Adam 君のギターは人間業とは思えません。どうしてもコレをギターで演奏したかったという熱意を感じます。ポーランドというお国柄もあるのでしょうか。

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  3. なるほど、グールド版には「色彩」とでも言うものがありますね。村上春樹氏もフェヴァリットに挙げていた記憶があります。

    ここ数日は土岐麻子「あなたはマドンナ」ばかり聴いています。

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  4. ふるかわさん
    そうですね、グールドの演奏はピアノの多彩な音色をうまく引き出していますね。実をいうと、グールドを初めて知ったのも「風の歌を聴け」で主人幸がレコード店でバック・ハウスとグールドのレコードを手に取りグールドを選んで買っていくとくだりでした。他に坂本龍一さんなど、ファンが多いですね。土岐さんの新譜はまだ聞いてません。聞いてみます。

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