Artist:エリック・アンダーソン
Song:Blue River
Album:Blue River
エリック・アンダーソンの「ブルー・リバー」。
履き古され自然に体になじんでいるジーンズのようなアルバム・・・。
ジャケットの手触りさえ、まるで、デニムのよう・・・。
所有しているアナログ・レコードは1976年の国内盤なのでリリースされて4年後だった。だから初めて聞いたのは19才の頃。30年以上の歳月がジャケットの縁を茶色に変色させている。それがかえって、私とこのアルバムの絆のようで、小さなコーヒーの染みさえ愛おしい。
ブルー・リヴァー
苦悩の魂を全部投げ捨ててしまおうと
老人は川へ出かけていく
望みさえすれば何処へでもいけるんだ
ただボートで漕ぎ出せばいい
ブルー・リヴァーは流れ続ける 岸辺にそってどこまでも
深みに落ちたり闇に包まれたりしないように
どうか私達を守っておくれ
あまりにも遠くまで彷徨い出たりしたくはないのだから
このアルバムに針を落とすと、かならず、在る場所へいざなってくれる、それは、とても懐かしく、自分が自分でいられるような穏やかで、喧噪から離れた静かな所。
木々は永遠の緑を保ち、川は清らかでせせらぎは美しい調べを奏でている。
木の香りのする懐かしい家。ここから、遠く離れ、暮らしていく中で色々な悲しみや悩みに打ちひしがれ肩をすぼめて帰ってきても、主人はいつも同じ言葉で迎えてくれる。「やぁ、元気だったかい」。凍える心を暖めてくれる一杯のコーヒーと共に。
ブルー・リバーは決して、その流れを絶やすことはない。
その場所へ運んでいってくれる。私が望みさえすれば・・。
このアルバムがリリースされたのは1972年。ニール・ヤングは「ハーベスト」を、ジェイムス・テイラーは「ワン・マン・ドッグ」。ランディ・ニューマンは「セイル・アウェイ」とSSWの名盤が次々に生まれた年でもあった。
それまでのエリック・アンダーソンはむしろフォーク・シンガーとしてウディー・ガスリー、ピートシーガー、ディランやジョーン・バエズ、フィル・オクスに憧れ、放浪しながらニューヨークへ辿りついた。やっとフォークのメッカだったグリニッジ・ヴィレッジで歌うようになった1965年頃には、すでに公民権運動は下火となりプロテスト・ソングを生み出していたフォーク・シーンもすでに変わり始めていた。
遅れてきたフォーク・シンガー。「おいでよ、僕のベッドに」というヒット曲はあったものの熱い想いで聞いたプロテスト・ソングを歌う場所は彼には与えられなかった。そして72年このアルバムでそんな彼にも転機が訪れた。ジャケットのみならず収録された1曲1曲は静かではあるけれど、時代が流れても、変わることことのない大きなエネルギーで僕らを抱きしめてくれた。不朽の名盤の誕生。
この勢いを借りて、さらに素晴らしいアルバムを彼は用意していた。
「Stages」というタイトルのそのアルバムには「Blue River」と同じ位、いやそれ以上の楽曲が並んでいた。レコーディングも終わり、あとはリリースを待つだけという段になって、あろう事かそのマスターテープが紛失するという信じられない悲劇が彼を襲った。ナッシュビルからニューヨークのCBS本社へ送られたはずのマスターテープが忽然と姿を消してしまったのだった。もし予定どおり「Stages」がリリースされていれば、さらなる成功を手にしていたに違いない。
失意の内にアリスタへ移籍、「Stages」からの6曲を75年のアルバム「Be True to You」に再録するもストリングスなどの過度のプロデュースもあって本人の望むものとは違ったものになった。後にその時の心境をこう語っている。
「キャリアの上で大変な損失だということはわかっていた。いくつかの曲をやり直したけど、同じようにできるワケがない。まるで棒高跳びをしていたら、棒がポキリと折れてしまったようだった。その瞬間の気持ちにはなれないんだ。」
そして、1986年になって、ニューヨークの保管倉庫の中でこのマスターテープは発見された。しかるべき時には発送されず、80年代半ばにナッシュビルの保管倉庫が整理される時になってやっとニューヨークに送られたとされるが今もって真相はわからないという。1991年に「Stages:The Lost Album」としてCD化されたが昔からのファンには大きな話題となるも、大きな評価を得られることはなかった。
悲運のシンガー・ソングライターそんな呼び方をされるけど、このアルバムを残してくれただけでも、エリック・アンダーソンの名前は永久に残ると思う。
皆さんもきっとそう思いますよね。
(”Blue River" by Eric Anderson)
(アルバム「Stages」に収録されるはずだった”Moonchild River Song” From[Be True To You (1975))
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