2011年3月9日水曜日

アレンジについて~Ruby and The Romantics

Artist:ルビー&ロマンティクス
Single:Hurting Each Other c/w Baby I Could be So Good at Lovin' You / USA / A&M 1042
Song Hurting Each Other

 先日、何気なくNHK-BS見ていましたら、カーペンターズの特集をやってました。「カーペンターズ~その栄光と影」の題名のとおり、華やかな活躍の事だけでなく、デビュー当時のふたりの葛藤やカレンを死に向かわせた拒食症のことなどを兄のリチャードが語っていたのですが、その中で、「自分はアレンジャーとしては自信があったが、カレンのようなヴォーカルを持てなかった。その代わりにカレンの音域や雰囲気に合う曲を選び、そしてカレンのヴォーカルが最大限に生かせるアレンジを心がけた」というような事を述べていました。聞いてピ~ンときた曲は、カーペンターズがやるとすればこういう曲になるという、アレンジが瞬時に頭の中に浮かんでいたそうです。その一例が、「愛のプレリュード」(We've Only Just Begun)だったようで、今でこそ、ポール・ウィリアムズ&ロジャー・ニコルズの名コンビの代表作ですが、当時はTVで銀行のコマーシャル・ソングにやっと採用された程度で、注目されることもありませんでした。かなり癖のあるポール・ウィリアムズの歌い方にも関わらず、この曲にビ〜ンときたリチャードの慧眼には、敬服いたします。これは後の話ですが、この銀行CMを聞いてリチャードはすぐ、ポール・ウィリアムズ連絡をとり「シングルにしたいんだけどフルバージョンはあるか」と尋ねたところ、「フルバージョンはすでにある」とポールは答えたそうです。実はそんなものはなく、CMに使用された以外の部分を慌てて作ったそうで、もし、「フルバージョンはまだない」と言っていたら、あの名曲は違うものになっていたかもしれませんし、後にこれも大ヒットした「雨の日と月曜日は」(原題:Rainy Days and Mondays)もカーペンターズが歌ってなかったかもしれません。まさにポール・ウィリアムズ&ロジャー・ニコルズにとっては運命の一言だったようです。

 この曲と同じように、リチャードのアレンジが光る一曲が、今回取り上げた
「Hurting Each Other」です。この曲はGary Geld & Peter Udellという作曲家コンビの作品で、Ruby and The Romanticsの69年にリリースしたシングルがオリジナルと思っていましたが、Jimmy ClantonとThe Guess Whoの前身バンドであるChad Allan & The Expressionsが共にすでに、65年に発表していたようです。どちらが本当のオリジナルかというと、アデル/ゲルドがプロデュースしているのがJimmy Clantonの方ですから、これがオリジナルということになると思います。カーペンターズがこの曲をとりあげたきっかけは、リチャードがA&Mの倉庫で曲を漁っている時に見つけたとか、Ruby and The Romanticsがこの曲をレコーディングをしている所に、リチャードがたまたま、居合わせたとか言われていますが、この3つの音源を改めて聞いてみる(下の音源を実際、聞いて見てください)と、カーペンターズのヴァージョンはJimmy Clantonのヴァージョンにかなり近いと思います。それから類推すると、リチャードはRuby and The Romanticsのヴァージョンではなく、オリジナルのJimmy Clantonのヴァージョンを参考にした可能性が高いと思われます。アデル/ゲルドのコンビについては、達郎さんのサンデーソング・ブックでも特集されていたことがあり、その時もこの曲についても{ジミー・クラントンのヴァージョンを聴いてないとカーペンターズのヴァージョンは出て来なかったんじゃないか」と確か言ってました。こんな推理をするのも、アレンジの楽しみ方の一つなんです。

カーペンターズ・ヴァージョンもさすがなのですが、この曲は他のアーティストにもカヴァーされていて、他にもLittle Anthony & The Imperials、B.J. Thomas、Jeffrey Foskettなどがあります。個人的には、どのヴァージョンより、このRuby and The Romanticsのヴァージョンが大好きです。ボサノバタッチの出だし、「Our Day Will Come」にも出てくる「魔法のオルガン」、アレンジはあのニック・デカロ。A&Mではサンドパイパーズ、クリス・モンテス、クロディーヌ・ロンジェ、ロジャー・ニコルズを手がけ、ワーナー/リプリーズではハーパス・ビザール、モジョ・メン、エヴァリー・ブラザーズのアルバムに参加し、ソフトロックを支えた名アレンジャーです。1974年のリーダーアルバム、「Italian Graffiti 」も何度聞いたかわかりません。Ruby and The Romanticsにはもう一人、Mort Garsonという作曲者およびアレンジャーがいます。代表曲である「Our Day Will Come」も彼の作品で、あの「魔法のオルガン」も彼の手によるものです。
Ruby and The Romanticsは KAPP Records から1961年にデビュー、その他、”Much Better Off Than I've Ever Been”、”Does He Really Care For Me””Your Baby Doesn't Love Anymore”(この曲も後に Carpenters によってカバーされました。)など素晴らしい曲が沢山あります。これらの曲はUKのCD「Our Day Will Come: Very Best of」でほとんど聞けるのですが、肝心の「Hurting Each Other」は残念ながら収録されておらず、いくつかのコンピレーションCDでしか聞くことができません。その上、シングルのB面であった”Baby I Could Be So Good At Lovin' You”(これもいい曲なんです)にいたってはCD化もされていないようです。どちらも聞きたい人はアナログ・シングル盤を手にいれるしかなさそうです。

 アレンジによって曲は新たな生命を吹き込まれ、甦ることがあります。アレンジがその曲の出来、不出来を決定すると言っても過言ではありません。自分の好みのアレンジャーを見つけ、追いかけてみることが、ひょっとすると、今まで聞いたことのないような素敵な曲に出会える最短距離なのかもしれません。

("Hurting Each Other" by Jimmy Clanton)

(Jimmyのオリジナル・ヴァージョンをふまえて聞いてみて下さい"Hurting Each Other" by Carpenters)

(69年当時にしてはかなりおしゃれなアレンジです。”"Hurting Each Other" by
Ruby And The Romantics)

(これが所謂「魔法のオルガン」"Our Day Will Come" by
Ruby And The Romantics)

5 件のコメント:

  1. すごいね。こんなにも世界感が変わるんだ。
    Ruby and The Romanticsのゴージャスバージョンも確かに良い。
    Dreamyな印象。時代はいつ頃なんだろう。

    僕は個人的にはCarpentersの、楽器が単独で聞こえたりするスカスカ感がいいなあ。ドラムもベースも、コーラスも、弦も、それぞれがすごく効果的に聞こえてくるのはさすがリチャードという印象を強くしました。

    ステキな曲をありがとう。

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  2. 陽さん、早速のコメントありがとうございます。
    素晴らしい原曲があって、色々なアーティストがカヴァーをすると、やはりアレンジャーの好みがかなり反映されてくると思うのです。そして、聞く方の好みとばっちり相性が合うと、一生ものの自分だけの宝になるんですね。
    ヴォーカルという観点からいくと、Carpentersの方が素直に歌詞が入ってくるアレンジではありますが、Ruby and The Romanticsも独特の雰囲気も捨てがたいですよね。
    69年の録音ですが、イントロなどは70年代のモータウンの感じがしますし、エンディングの弦楽器の処理などは後のフィリー・ソウルを予見させます。ニック・デカロとモート・ガーソンちょっと追っかけてみようかな。

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  3. そのモート・ガーソン、もちろん追っかけてました。
    かなりすごい世界ですよ「植物をに聞かせる音楽」とか、ずっと女性の喘ぎ声のレコードとか。モンドの帝王ですな。集めるのは覚悟がいります(笑)まとも?な作品でおススメは「LOVE SOUNDS」Liberty LST7559 です。これは今でもときどき聴きます。
    他にジョニー・ソマーズとかのプロデュースもしています。

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  4. フルカワさん
    モート・ガーソンって、その手の類のレコード出してたんですね。へえ〜知りませんでした。さすがにそこまでの覚悟はありませんので、オススメのLPに留めておきます。貴重な情報ありがとうございました。

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  5. Ruby and the Romanticsのバージョンとてもいいですね。
    CDに収録されていると記載してましたが、何というCDでしょうか?ネットで探してみましたが見つかりませんでした。

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