2010年12月14日火曜日

師走の挽歌~渡辺貞夫

Artist:渡辺貞夫
Album:I'm Old Fashioned
Song:Gary

 今年もいよいよ、残り少なくなってきました。師走は何か、もの悲しいですね。
街には沢山の人が行き交い、一年の中でも、華やかなハズなんですが、冷たい風が頬を突き刺し、冷気で耳が悴んだりすると、気持ちまで、こごえるようです。ため息などつきつつ、ふと思い浮かぶメロディーがこの”Gary"です。
そんなわけで、今回はこのブログで取りあげるのは初めてのJazzのアルバムです。

 ”ナベサダ”こと渡辺貞夫さんは日本を代表する、サックス、フルート奏者。それだけではなく優れた作曲家でもあります。1933年生まれですから、御年77才、バリバリの現役です。18才で上京し、21才の時、横浜のジャズクラブ「モカンボ」で秋吉敏子(ちなみ日本人でただひとり、ジャズ殿堂入りしました。)率いるコージー・カルテットに加入、その当時から、すでに卓越したテクニックを持っていたと言われています。

若き”ナベサダ”さんに大きな影響を与えたと言われるのが、守安祥太郎というピアニストでした。若くして夭折したため、幻のピアニストと言われていますが、その当時まだ、浸透していなかった”ビバップ”のジャズの手法を理論的に解析し、周囲の日本人ミュージシャンにレクチャーするなど、指導者的立場にあったとされます。あのチャーリー・パーカーのめまぐるしい超絶演奏を正確に採譜して、若き日の”ナベサダ”さんを驚かせたというエピソードがあるぐらい天才肌だったようです。守安祥太郎に関しては、ほとんど録音が残されていないとされていましたが、最近「モカンボ」でのセッションを記録したテープが発見され、その斬新な演奏は、今後、再評価されることと思います。ちなみにその「モカンボ」でのセッションを仕切っていたのが、ハナ肇、会場のもぎりをしていたのが植木等だったそうです。みんな夢を追っていたんですね。幻のピアニスト守安祥太郎は、その後、31才の若さで、電車に飛び込み自殺。極度のノイローゼが原因だったと言われています。

”ナベサダ”さんは、秋吉敏子が渡米したのち、代わってバンドを引き継ぎましたが、33才の時に自らも渡米、ボストン市のバークリー音楽院(現バークリー音楽大学)に留学します。そしてここで、その後の音楽人生に影響を与えた2人目のミュージシャン、この曲の題名にもなっているゲイリー・マクファーランド(Gary McFarland )と出会います。ヴィブラフォン奏者だったGaryは”ナベサダ”さんにその当時まだ新しい音楽だったボサノバを教え、彼にさらなる世界を指し示したようです。ゲイリー・マクファーランドはポピュラーの曲を積極的に取りあげ、Jazzは聞きやすく、より身近な音楽なんだということを主張していきました。個人的にも晩年近くに録音した「バタースコッチ・ラム」や「トゥデイ」などはJazzというよりは、ソフトロックのアルバムとして聞いていたほどで、Jazzの王道からすると、かなり異色のミュージシャンだったと思います。このJazzをより身近なものにする手法は、その後の”ナベサダ”さんに、サックスのフレージングだけでなく、作曲法においても大きな影響を与えたのではないでしょうか。(Garyは残念ながら1971年没。)ゲイリーに捧げられたこの曲でも歌心あふれるメロディーを、噛みしめるように演奏しています。バックはこれ以上のメンバーは望めなかったであろうリズムセクション、ザ・グレイト・ジャズ・トリオ〜ハンク・ジョーンズ(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)です。

この曲の胸を締め付けるメロディーは、マル・ウォルドロンがビリー・ホリデイに捧げた”レフト・アローン”やトム・スコットの代表作、映画”タクシー・ドライバー”のテーマ曲にも匹敵すると思います。
師匠ゲイリー・マクファーランドだけではなく、若き日々に、切磋琢磨した幻のピアニスト守安祥太郎に捧げる鎮魂歌であったとも言えます。

「師走の挽歌」はすべての悲しみを包み込んでくれるようです。

(”Gary" by 渡辺貞夫withグレイト・ジャズ・トリオ)

(幻のピアニスト守安祥太郎さんの貴重な録音。54年当時、パーカーやパド・パウエルのビバップを自分のものにしていたことがわかります。)

6 件のコメント:

  1. そうかあ、そういう曲だったんだ。
    裏ストーリーは初めて知ったかも。
    ついつい外国のミュージシャンのストーリーは読むけどね。

    しかし、Moonlight Surfer氏にサックスの曲聴かされると、
    尻を叩かれているような気になる私、、、、病気?。

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  2. あ、書き忘れていた。
    ステキなメロディーだよね。。本当に久々に聴きました。
    うん、王道の安心感がある。

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  3. このため息にも似た、ヴィブラート。どうやったらこんな切ない音がだせるのしょうか。まさにサックスの為に作られた曲ですよね。
    そんな、尻をたたいているつもりはありません。
    今後の陽さんの参考にでもなればと思っとるだけでして・・・・。
    そんな、そんな、ここまでうまく吹けとは決して申しません。
    (ちょっとしつこい!)
    でも、そのうち、イヤでも、吹いてもらいますよ。

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  4. のっぽのサリー2012年1月23日 17:15

    陽さんってサックスするんですか?
    浪夢さんたちのバンドに、管楽器やキーボードを入れてほしいなあって思っていました。
    部外者ですが、私からも是非お願いいたします。
    私も中学時代、吹奏楽でちょこっとやっていました。
    勤めてから古道具屋のウインドウにアルトサックスがあって、どうしても欲しくて、2回目のボーナスで買ってしまいました。それから5年ほど、会社の忘年会バンドでチェッカーズなど吹きましたよ。(^^;
    頑張ってください!(^0^)/
    ところで、12月から更新されていませんが、Moonlight Surferさんは体調でも崩されましたか?

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  5. 私の相棒、陽ちゃんは昨年からサックスを初めまして、現在特訓中でございます。リードボーカル取りながら、間奏でサックス吹くのは至難の業らしく孤軍奮闘しているみたいです。でも昨年の6月に地元でやった酒蔵Liveではオリジナル曲でサックスデビューしたんですよ。
    ブログ滞っておりますね。特に体調を崩したワケではありません。ちょっと充電中です(笑)。

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  6. のっぽのサリー2012年1月24日 11:21

    おぉ、それはすごい!
    やりますね~!!
    リードボーカルの方が、陽さんなんですね。
    女性の方にもキーボードとか頑張ってもらいましょうよ。
    Moonlight Surferさんもお元気で何よりでした。(^o^)

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