2010年4月9日金曜日

職人芸〜10cc

Artist:10 cc
Album:The Original Soundtrack
Song:I'm Not In Love












今回はこの曲。ご存じ、10 cc の代表曲であり、70年代ロックを代表する1曲でもあります。
イギリスはマンチェスター出身。メンバーはグレアム・グールドマン、エリック・スチュワート、ロル・クレーム、ケヴィン・ゴドレイの4人。
グールドマン&スチュワートがおもにバンドのメディー・メイカーだったのに対し、ゴドレイ&クレームはおもに音響やレコーディング・テクニックや映像の方を担当していました。つまり二つのユニットが合体したようなグループだったんですね。優れたメロディー・メイカーと優れたサウンド・メイカーが色々なアイデアを出して、1+1=2ではなく10ぐらいになったのがこの曲なのかもしれません。

 架空の映画音楽をコンセプトしたこの「The Original Soundtrack」は1975年にリリース。10ccの中でも最高傑作とされるこのアルバムは後のクイーンの”ボヘミアン・ラプソディー”にもかなり影響をあたえたとされています。その中でも”I'm Not In Love”はメロディーの素晴らしさもさることながら、さらにメロディーを引き立たせている、洪水のような分厚いコーラスに魅了されます。
先日BSの音楽番組「Song to Soul〜永遠の1曲」をみていたら、この曲をコーラスをどうレコーディングしていったかをエンジニアが解説してましたが、たいへん面白かったのでちょっとその話を・・・。まず1975年のころマルチトラックレコーダーは今みたいに、無制限にトラックが増やせませんし、ヴォコーダーやメロトロンもまだ開発の段階でした。では「どうやってつくったの?」。その番組の解説を総合すると、
1)3人のユニゾンで「アー」という単音(たとえばド)をMTRにレコーディングして、ダビングを繰り返す、仮に10回繰り返すと3人×10回=30人分の「ド」のユニゾンができる。
2)別のオープンリール・レコーダーにこの30人分の「アー」をミックスしたものをダビング。
3)この1トラックにまとまった30人分の「ド」のテープをハサミで切り、スプライシング・テープで貼り付けて輪の状態にする(ループを作る)
4)上記を繰り返し、この曲のコーラスで必要な音程の数(12音程度と思われる)のループ・テープを作成する。
5)こうして出来上がった12音分のアナログ・テープを、一本ずつループ再生しながら別のMTRに、曲の長さ分ダビングする。(合計12トラック使用することになる)
6)こうして出来上がったマルチ・テープの12トラックを、ミキサー卓に個別に立ち上げ再生する。すると、12トラックの各フェーダーは12種類の音程(・・A,A#,B,C,C#,D,D#,E,F,F#,G,G#・・)のボリュームをコントロールすることができる。
 仮に「ドミソ」のコーラスを再現する場合は、それぞれの音程が録音されているトラックのフェーダーを上げてやる。音程毎に30人分のコーラスであるから、「ドミソ」だけでも90人分。12個のフェーダー全部上げると、360人分のコーラスが再生されることになる。
7)この状態で曲に合わせて、各フェーダーを上げ下げしてハーモニーを作りながらコーラスパートを加える。イントロやエンディングで現れる洪水のようなコーラスはキーはAなのでラ-シ-ド#-レ-ミ-ファ#-ソ#の7音のフェーダーを全て上げる。実際にはコーラスに加えシンセもダビング。(以上 metpatheny さんのプログからの引用)

つまりミキサーのフェイダーを鍵盤がわりに使って、コーラスを作っていくというきわめてアナログ的な手法でつくられていたんです。途方もない手間と時間。まさに職人芸。

「いいかげんな仕事しちゃ〜、お天道様に申し訳がたたねぇ〜やな。」とマンチェスター弁で啖呵を切ったかどうかは、定かではありませんが・・。

まさに、ミキシングしながら、音楽をつくっていくということなんで、メロディー・メイカー組とサウンド・メイカー組がしっかりスクラムを組んでいたから為しえた作業ともいえます。(ちょうど浮世絵の作者と彫り師や摺り師の関係ですね。)

しかし皮肉なことに、この曲の大ヒットによりメロディー・メイカー組とサウンド・メイカー組が対立。1976年にはあっさり解散してしまいます。1992年には同じメンバーで再結成していますが、昔の輝きを取り戻すことはありませんでした。名曲が生まれるためには、この魔法のような何か(1+1=10)が必要なんですね。

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