Artistアルゾ
Song:Don't Ask Me Why
Album:Alzo(日本盤CD:Bellレーベルジャケ)
12弦ギターの響きが好きでした。もちろんアコースティック・ギターの方です。
きらきらとしたあの華やさ。音色の豊かさに惹かれ、相棒と出会った頃(21~22才あたり)YAMAHAのFG(ああ懐かしい)の12弦ギターを購入。こればっかり弾いていた時期がありました。6弦ギターにない響きを堪能できる反面、やっかいなことがいくつかあります。まず弦の張り替え。これがけっこうたいへん、12本ありますから当然時間も2倍かかるんです。6~4弦まではオクターブ違う音になっているので4弦の細い弦など注意しないと張り替えの時点でブチッと切れることもあります。次にチューニング。今でこそメーターなどありますが、12本あるので常にチューニングしないと微妙なズレ生じてきます。そして握力。ストロークなどはなんとかなるのですが、ピックを使用するアルペジオなどできれいな音を出すには、かなり押さえる力がいるんです。練習が終わる頃には、指先に腹に2本の筋が出来、そのうち何度も皮がむけて、痛いのをガマンして弾いているとだんだん指先が堅くなってきます。そんな苦労もジャリーンとAMaj7のコードを弾いた時のあの天にも昇る快感を経験してしまうと、だんだん、この響きがないとどんな曲でも、もの足りなくなり、いわば12弦中毒の状態になってしまうのでした。
12弦ギターはアンサンブルとして使用されることはよくあります。一番有名なのはイーグルスの”ホテル・カリフォルニア”のイントロですかね。それにジョージ・ハリソンの”Here Comes The Sun”、その他CSN&Y、バーズ、アメリカ、ジョン・デンバー、S&Gや、その他、ロック系の曲も多数ありますし、日本のミュージシャンの曲も沢山あるんですが、この12弦をメイン・ギターとして使用し、しかもソロでやっているアーティストはレオ・コッケやイギリスのトラッド系のミューシャンを除くとあまりいないのではないでしょうか。
アルゾはそんな数少ない12弦ギターのソロ・シンガーなのです。
このアルバムには、ある日本人とのエピソードがあります。海を越えた音楽で結ばれた絆。ちょっとお付き合い下さい。
アルゾ・フロンテはニューヨークに生まれ、父の手ほどきでギターを始め14才になる頃には充分、弾きこなせるようになっていました。アルゾにはフランクという従兄弟がいました。後にシティー・サーファーズのヒット曲”Powder Puff"を作曲しポップシンガーとなるフランク・ギャリです。63年には二人でBeachcombersに”Surfin' The Summer Away/This Is My Love"(DIAMOND D-168)のシングルを書き二人でヴォーカル、コーラスも担当します。特にB面"This Is My Love"はメロディーとコーラスが美しく、すでにアルゾが卓越した作曲の才能をもっていたことがわかります。
その後ハイスクールの友人だったユーディーン(シャレじゃありません)とコンビを組み1968年頃からアルゾ&ユーディーンとしてマーキュリーから4枚のシングルとアルバム「C'mon and Join Us!」をリリース。当時としては12弦ギターのカッティングにラテン的なパーカッションを組み合わせるという斬新な手法であのローラ・ニーロが彼らに興味をもちプロデュースを申しでたという話もありましたが実現されることはありませんでした。アルバムの宣伝もロクにされないまま、マネージメントからも見放された彼らはコンビを解消。音楽の世界から足を洗いテープメーカー、アンペックス社に勤めることになりますが、そこでアルゾ&ユーディーンのアルバムが好きだった人物に勧められアンペックスと契約。ふたたびミュージシャンの道を歩むこととなります。かれはプロデュースをかねてから敬愛していたジャズ・ミュージシャンでアレンジャーでもあったボブ・ドロウ(ブロッサム・ディアリーとも親交あり)に依頼。ふたりはすぐさま意気投合しアルバム制作へ。完成したアルバムは洗練されたジャズとブラジリアンテイストとソウルフルなリズム、ポップでありつつもフォーキーな親しみ易さをもった素晴らしいものとなりました。そして、1971年の暮れにソロアルバム「Looking For You」リリースされることとなります。
1972年、四谷にあるディスクチャートというロック喫茶。開店準備を終え、最初のお客を待ちながらこのアルバムをターンテーブルに乗せることを毎日の日課にしている人がいました。それは一日の爽やかな始まりを迎えるには恰好のアルバムでした。その店ではピーター・ゴールウェイ、ローラ・ニーロ、バリー・マンと同じぐらい頻繁にこのアルバムが流れていました。その後、彼は70年代初期から後期にかけ、シュガー・ベイブ、ティン・パン・アレイのマネージャーとして、コンサートやレコード制作に携わることになります。その人とは、後に伝説となる南青山の輸入レコード店パイド・パイパー・ハウスの店長、長門芳郎さんでした。ヴィレッジ・グリーン・レーベル(1988年~1992年)、ドリームズヴィル・レコード(1998年~現在)等のプロデューサーとして、ジョン・サイモン、ローラ・ニーロ、ハース・マルティネス、MFQ、ジェリー・ベックリー(アメリカ)、オーリアンズ、ロビー・デュプリー、ビル・ラバウンティ、ジェフリー・フォスケット、NRBQ、バジー・フェイトン、ケニー・ヴァンス、テレサ・ブライトなど僕らに素晴らしい音楽を提供してくれましたが、ずっとアルゾのあの素晴らしいアルバムが彼の頭から離れなかったそうです。何時か日本でこのアルバムをCD化したい。そして行方がわからなくなっていたアルゾの消息を探し始めました。
一方、アルゾの方はアルバムからのシングルにヒットの兆しが見え始めた頃、突如アンペックス社のレコード部門が打ち切られるという不運に見舞われていました。ベル・レコードがこのアルバムを高く評価しジャケットを刷新し「Alzo」というタイトルで再リリースしますが不発におわり、ベル・レコードも解体、アリスタに吸収され、すでにレコーディングも終わっていたセカンドアルバムも幻のアルバムとなってしまいました。失意のうちに音楽シーンから姿を消した彼はロングアイランドでアンティーク家具屋を経営しながら、いつか誰かが自分を発見し、探し出して連絡してくれることをずっと信じていました。
日本ではアルゾの消息を人捜しの会社に依頼してまで捜索していましたが、その行方はようと知れませんでした。そんな時、たまたまこのアルバムをネットに掲載したあるブログに、アルゾ本人からの投書があり、彼を捜していることを知っていたブログ主人が長門さんに連絡をとりました。そうして長い間、求め続けていた二人は運命的な出会いを迎えることになります。
音楽にはこんなに素晴らしい出会いがあるんです。
2003年、この出会いにより、日本で、このアルバムは世界初CD化となり、私達に届けられました。2004年には幻だったセカンドアルバム「Takin' So Long」も長門さんの熱意でCD化され、二人の出会いは夢のような出来事を生み出していきました。しかしこのセカンドアルバムのリリースを2が月後に控えていた2004年の2月1日、日本でのリリースを祝ってくれた友人達がつどうバーで、突然の心臓発作がアルゾを襲います。そして永眠。
CDのライナーのアルゾ本人の謝辞にはこう綴られています。
「僕の音楽を知り愛し続けてくれ、再び僕が現れることを待ち続けてくれた素晴らしい人達にこのアルバムを捧げたい。そして、このアルバムはあなた方のためにあるだけでなく、あなたたちのおかげで生まれたのです。」
久しぶりに12弦ギターを弾いてみようと思う。
アルゾの響きは出せないけど、今なら色々な想いを込めて弾けそうな気がする。
("Don't Ask Me Why" by Alzo)
(" Looks like rain" By Alzo)
梅雨時だったでしょうか、「Looks Like Rain」がラジオから流れて、アルゾってどんな人かなあって思っていました。
返信削除こんな映画のような物語があったのですね。(;;)
「Don't Ask Me Why」すごくいい雰囲気ですね~。
ギターがとってもきれいです。
Dan Fogelbergもギターの音がいつもきれいだなあって思っていましたけど、12弦ギターなんですね。
うちのプレイヤーは壊れてしまって、もうレコードが聴けないんですが、アナログの音って、すぐそばで弾いてくれてるような臨場感と柔らかさがあって、デジタルでは再現できない美しさがありますね。
でも、2枚目のアルバムのお祝いの席で倒れてしまったなんて、本当に残念です…
ファイターズも残念な結果に終わってしまいましたが、
SBが日本一になるよう北海道からも応援していますよ!
(^o^)/
アルゾさんも生前、自分を探し求めてくれた日本のオーディエンスに感謝の言葉を述べていました。もう少し生きていたら、新しいアルバムが日本からリリースされていたかもしれませんね。
返信削除最近、年のせいかCDの高音が耳障りになることがあり、アナログの音がまろやかに感じるようになってきました。レコードをひっくりかえす作業もまた楽しです。クライマックスSはいよいよです。SB応援宜しくお願いします。
注文してたCD「ALZO」が今日届きました。
返信削除久しぶりに仕事のない午後、何度も何度も聴いています。
本当に素晴らしいアルバムですね。歌も演奏も美しすぎです!コーラスやギター、ピアノやフルートもとてもきれいですね。
それにアルゾと長門さんのコメントがとても泣けますね…。
Moonlight Surferさんに本当に感謝です。
のっぽのサリー さん
返信削除CD買っていただいたんですね。この年になると繰り返し聞けるアルバムと出会うことが、益々難しくなってきます。アルゾと長門さんの絆がこうやって、どんどん広がって行くようで・・・。いや〜うれしいなぁ。のんびりとした午後にはうってつけのCDですよね。Alzoさんも、たぶん天国で感謝してると思います。