Album:Fancy That
Song:Dancing In The Dark
その当時は、日の目を見ることなく、うち捨てられたようなアルバムの中に、思わぬ宝が隠されているということがあります。所謂、「忘れられた名盤」。今回は、そんなレコードのお話です。
二十数年前の話になりますが、福岡市に住んでいた頃、1軒のレコード屋さんと巡り会いました。「山兵」とちょっと古風なネーミングのその店は、狭い店内に堆く、アナログレコードが積まれ(その頃はまだ、CDより、レコードが主流だったように思います。)、雑然とした中に、独特の雰囲気があって、何回か通う内に店長のY氏とも親しくなり、Y氏を通じて、同じ趣味のお客さんを紹介して、もらったりしておりました。話が盛り上がると、今度気に入った音源を持ち合いましょうということになり、それぞれが架空の音楽番組を作るように、カセットテープ(まだ、カセットテープの時代でした。)に録音し、さらに1曲、1曲に解説をつけて、数人の間で交流を深めていきました。当時、そんな時間と情熱が何処にあったのか、今でも不思議ですが、さして苦になったりした記憶がないので、よっぽど、その作業が楽しかったのかもしれません。そのお陰で、自分の知らない分野の音楽を知ることができ、音楽に対する視野も段々広くなったような気がします。「音楽の道場」私にとって、そんな所でした。
そうして情報を交換していた時期に、店長のY氏に、このアルバムを教えてもらいました。今ではもらったカセットも何処にいったかわかりませんが、一曲目の”Dancing in the dark”を聞いた時の衝撃は今でもはっきり憶えています。まるでマリア・マルダーのファースト・アルバムの”真夜中のオアシス”を彷彿とさせる、ちょっとノスタルジックなイントロに絡みつくようなリード・ギター、このギターは、大好きなエイモス・ギャレットで、エンディングにかけてのコーラスのスイング感からして、これはUSAのアルバムに違いないと思い込んでいました。それからこのアルバムを探し続けましたが、ついにそのレコードを手にすることはできませんでした。
そして、このアルバムの事さえ、忘れかけていた2006年、なんと日本のみでCD化され、ひっそりとリリースされました。邦題「夢見る歌姫」。ちょっといただけない邦題で、ジャケだけみるとまるで1980年代のディスコ・アルバム、内容を知らない限り、まずジャケ買いはあり得なかったでしょう。
ライナーから色々なことがわかってきました。
1)リリースは1979年、USAからではなくUKからだったこと。
2)リード・ギターは、エイモス・ギャレットさんではなくフェアポート・コンヴェンションのギタリスト、ジェリー・ドナフュー(Jerry Donahue)だったこと。
(でもソックリなんです。エイモスさんのギターがお好きな方なら誰だってそう思うはずです。)
3)当時もまったく売れず、在庫が倉庫に山積みされていたようで、市場に出回った枚数が極端に少なかったこと。(だからあまり見かけることがなかったのですね。)
もし、このアルバムが1970年代の前半にリリースされていたら、もっと評価されていたかもしれません。時期が遅すぎました。Joanna Carlin名義では、たった一枚しかリリースされなかった「忘れられた名盤」。
そんなわけで、この曲を聞くたびに、今はなきレコード・ショップ「山兵」を思い出します。店長だったY氏が、もし、今でも、このアルバムの貴重なアナログ盤をお持ちだったら、このアルバムをターン・テーブルに乗せ、当時の思い出を飲みながらでも、語り合いたいものです。
("Dancing In The Dark" by Joanna Carlin)
う~ん、確かに「真夜中のオアシス」ですね!早速アマゾンで注文しました。
返信削除この心地良さ、個人的にはかけがえのないものですが、79年は残念ながらチト遅すぎますね。
今は無き「山兵」に私も乾杯!ヌーボー1本空きました。
私が山兵に出入りするようになったのは23年前です。
確かにUSAのルーツ音楽をかなり意識して作られています。Joanna Calinはその後Melanie Harrold名義で「Blue Angel」というAORアルバムをリリースしていますが、そちらは未聴です。
返信削除「山兵」は僕らにとって、音楽発信基地でもありました。「カフェオーレ・ガール」でもだいぶ感性を磨かせてもらいました。今はなき「山兵」を惜しみつつ・・・。